北京五輪シーズンの開幕戦で男子短距離界に新星が現れた。男子500メートルで森重航(21=専大)が初優勝。03年に18歳で大会最年少優勝を果たした加藤条治に続き2番目となる同種目の年少記録。タイムも大会記録に並ぶ34秒64と一気に五輪代表争いに名乗りを上げた。女子500メートルは小平奈緒(35)が高木美帆(27)と直接対決。0秒07差の37秒58で制し、7連覇で12度目の優勝を飾った。今大会の各種目上位5番に入れば年内のW杯前半戦の出場権が得られる。

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同組で国内最高記録を持つ村上右磨を相手に森重は一歩も引かない。苦手のスタートから100メートルを28人中6番の9秒67で乗り切って勢いに乗る。「最初のコーナーを良いテンポで出てバックストレートで相手を追えたことが良かった」。最後のストレートで村上を捉え、大会記録に並ぶ34秒64をたたき出した。

「2人に勝てると思っていなかった」。21歳の大学生が、日本記録保持者の新浜と村上の2強に食い込んだ。今季から将来性を買われ、所属の枠を超えて強化するナショナルチームに抜てきされた。五輪経験者らトップ選手の練習方法や技術を間近で見られた。特に大きかったのは苦手な最初の100メートル。「スプリント力を見て吸収して、その爆発力が徐々に自分のものになってきた」と言い、先週のタイムトライアルでは35秒5台を記録していた。

北海道の東端で、海の対岸には国後島がある別海町出身。小中学校時代のスケートチームは4歳上の新浜と同じだった。「自分よりやんちゃな子だった」と新浜。高校は山形中央に進学。先輩で10年バンクーバー五輪銅メダルの加藤条治からは「後輩がトップに立ち、3枚目の看板として頼もしい限り」とエールを送られた。

今大会の優勝で来月12日から始まるW杯前半戦の代表権をつかんだ。それでも「あまり王者というイメージを持たないでW杯に挑みたい」と控えめに言う。W杯前半戦の4試合と年末の五輪代表選考会で好成績を残せば初の五輪出場が見えてくる。「北京はまだ実感が湧かないが、代表選考会に向けて気持ちを高めていきたい」。日本の男子短距離界を刺激する五輪シーズン開幕戦の新星誕生となった。【三須一紀】

◆北京五輪代表への道 11、12月のW杯前半4大会と12月の代表選考会(長野)の結果で決まる。W杯の成績により各国・地域に最大男女各9人の代表枠を配分。日本連盟が定めたW杯で平均的に3位以内に入るなどの基準を満たせば、男女各4人までに事実上の内定を与える。残りは選考会の成績で選ぶ。男子500メートルは、日本記録33秒79を持ち、19-20年シーズンの世界選手権スプリント部門とW杯500メートル総合の2冠を取った新浜と、国内最高記録34秒44を持つ村上が代表候補でメダルも期待されていた。その中に今大会初優勝した森重が割って入ったことにる。

◆森重航(もりしげ・わたる)2000年(平12)7月17日、北海道別海町生まれ。山形中央高から19年に専大進学。現在3年。高校2年時の18年全国高校選抜では500、1000メートルの2冠。大学1年時の19-20年シーズンのジュニアW杯500メートルで優勝。500メートルの自己ベストは昨季出した34秒82。趣味は漫画と球技。