競泳女子で昨年春に引退した清水咲子氏(29)が、日刊スポーツに文章を寄せた。5日までの国際大会日本代表選手選考会で感じたこと、自身の体験談などを記した。
◇ ◇
■国際大会日本代表選手選考会を終えて
オリンピックが終わり約半年という、タイトなスケジュールで行われた選考会で今年の夏の代表が決まった。
普通なら、競泳の代表選考会は4月に行われるが、今年は6月に世界選手権がある関係から、3月の選考会に。選手達はオリンピック後に休む間もなく次のシーズンの準備を行わなければならなかった。
体よりも心をリセットすること。この選考会までにうれしい気持ちも、悔しい気持ちもリセットしてスタートを切るのはオリンピック後が一番難しい。
私自身もリオデジャネイロオリンピックの翌年だった2017年は体は元気なのに、心のエネルギーが不足し、好きな水泳をしている時間が平凡で、どこなく作業のような動きが続き、つまらなく感じてしまっていた。
そのくらいオリンピックの後にモチベーションを維持するのは難しいものだ。
そんな中、今まで名は知られているベテラン勢がここ一番で負けてしまったり、去年の悔しさを糧に大きく成長した選手の活躍がみられた。
女子100メートル平泳ぎで青木玲緒樹選手が日本新記録で優勝。
女子400メートル個人メドレーでは、谷川亜華葉選手が自己ベストで優勝。
男子100メートルバタフライでは水沼尚輝選手が、13年振りの日本記録を達成した。
実際に現場で泳ぎを見た私も3選手のレースを見て「これはしっかり練習を積んだのだな」と思った。初めてのオリンピックを経験し、自分の課題を改善した泳ぎで勝負を制した。パリオリンピックへ向けて再始動していることが感じられた。
今回、惜しくも代表権を逃した400メートル個人メドレー女子成田実生選手、男子田渕海斗選手は末恐ろしいと感じた。
この選手達は昨年のオリンピック選考会以降、確実に力をつけ、泳ぐたびにベテラン勢との差を縮めてきている。
すごさは、タイムだけではない。
自分より持ちタイムの速い選手の前に、積極的に出るレースをした。
これは、勇気がいることでもあり、出ようとわかっていてもなかなか出られないのが現実だ。
どうしても自分より速い選手、ましてやオリンピックメダリスト達が隣で泳ぐと「ついていこう」「離されないようにしよう」と自分が後ろにいることを想像するのが普通だが、この両選手は、前に出て勝負するということを成し遂げた。
この力が今後、ベテラン選手たちを倒すものとして、どのような形で現れるのか。
悔しい気持ちが大きかった代表選考会ではあったと思うが、この子たちの次のレースはどんなことをやってしまうんだろう、と楽しみになる。
水泳界では、影に隠れていた才能たちがこれからどんどん開花しそうな予感がした。
◆清水咲子(しみず・さきこ)1992年(平4)4月20日、栃木県生まれ。本職は400メートル個人メドレー。14年日本選手権初優勝。16年リオデジャネイロ五輪は準決勝で日本新の4分34秒66をマーク。決勝に進出して8位入賞。17年世界選手権は5位に入った。21年4月の日本選手権をもって現役引退した。今年4月から母校でもある日体大水泳部競泳ブロック監督に就任するとともに、同大学院に進学を予定。トップ選手を育てる指導者を目指している。