テルさんらしく、明るく元気に-。Wリーグ・アランマーレ秋田・佐藤ひかる(27)は昨季、日立ハイテクから移籍し、新天地での活躍を夢見たが、開幕前の練習中に起きた頭部負傷の影響で「脳脊髄液漏出症」を発症。以降は療養生活を送り、1試合も出場できずにシーズンを終えた。再起に燃えるシューターへ、桜花学園(愛知)、山形銀行で一緒にプレーした仙台大・高橋智歌(4年、25)が先輩との思い出を振り返り、宮城からエールを送った。【取材・構成=相沢孔志】

秋田出身の高橋が、地元のアランマーレ秋田でプレーする佐藤との思い出を回想し、今季の活躍を願った。「テルさんらしさを忘れないで頑張ってほしいです。テルさんは周りをいつも元気づけてくれる存在だから、試合に出ていても、出ていなくても…」。

出会いは12年春。故郷を離れ入学した桜花学園の2学年先輩だった。1年生から見る3年生は「憧れの先輩」。全国制覇を目指す強豪でともに過ごした時間は1年だが、練習中に見せた真剣な姿が印象に残っている。

高橋 練習でチームを引っ張ってくれる存在で、士気を上げる言葉をかけてくれる先輩でした。私もこういう風にならないといけないなと感じました。

同校卒業後、山形銀行に入行。3年目の17年春。関学大(兵庫)を卒業した佐藤が山形にやってきた。「また一緒にプレーできるとは思っていなかったのですごくビックリしました。うれしかったです」と高橋。プレーや背中でチームメートを引っ張る姿は、変わっていなかった。

高橋 高校時代からすごく上手でした。1対1やジャンプシュートもすごく上手。ここぞという時に決めてくれる選手、任せられる選手だったと思います。

同行では仕事をしながら競技をする多忙な日々。いつも身近で支えてくれた。「一緒に仕事をしてバスケもして、ずっと一緒に毎日生活しているような感じでした。試合に出られなくて落ち込んでいる時、きつい練習の時は声をかけて私を励ましてくれました」。

18年3月。別れが訪れる。佐藤は日立ハイテクへの移籍が決まり、念願だったWリーグの舞台に進んだ。山形を去る数日前。高橋の胸に今でも残る、ある出来事が起きた。

高橋 退寮する前の日とかに、みんなでテルさんの部屋に行きました。「今までありがとう」みたいな感じで行ったら、1人1人に手紙を書いてくれて。それをもらってすごく感動して…。すごく泣いた思い出があります。

以降は同行で1年プレー。19年4月に「子どもが好きで、自分のキャリアを生かして子どもたちに運動を教えたい」と仙台大に進学。競技を続けながら夢のために勉強してきた。一方、佐藤は日立ハイテクでの3シーズンを経て、21年5月からアランマーレ秋田に所属。加入が決まった時は「秋田に行ったんだね、みたいなことを連絡して。(佐藤からは)『雪がすごいね』と(笑い)。でも『秋田はすごくいいところだね』と言ってくれました」。

昨季開幕前から長期離脱し、試合の出場がなかった佐藤にとって、移籍2年目の22-23年シーズンは勝負の年。今度は私が-。前向きに明るく、背中を押してくれた先輩にエールを送った。

高橋 テルさん持ち前の明るさと笑顔でチームと秋田を盛り上げてほしいです! 私もラストシーズン頑張るのでお互い頑張りましょう!

頑張る人がいるから頑張れる。1日でも早い復帰とコートで躍動する姿を信じて、これからも応援する。

◆高橋智歌(たかはし・ちか)1996年(平8)8月22日生まれ、秋田県横手市出身。旭小3年から競技を始める。横手南中-桜花学園。卒業後は山形銀行で4年間プレーし、19年4月、仙台大に入学。180センチ。ポジションはセンター。家族は両親と妹2人。憧れの選手はデンソー高田真希。

<4月から練習再開>

後輩の応援を力に変える。佐藤は桜花学園、山形銀行時代にチームメートだった高橋の名前を聞くと「えっ!」と驚いた。エールを聞くと笑みを浮かべ、気持ちを引き締めた。「心配してくれた方はたくさんいて。復帰して試合で勝つことで秋田が盛り上がると思うので頑張りたい」。

昨年9月の練習中に頭部を負傷。2日の休養を経て練習を再開したがその夜、体調不良と頭痛が襲った。1度は脳振とうと診断され、安静に過ごすも体調は改善されず。その後、別の病院を受診したところ「脳脊髄液漏出の疑いがある」と診断された。以降は入院や寝たきりの生活も経験。都内の病院などで治療を受け、徐々に回復した。日常生活が問題なく送れるまで約半年を要したが、今年4月の始動から練習参加してきた。

現在の症状は「日によって波はありますが、首や頭が痛い時はあります。室内から外に出る時は光がまぶしい」と説明した。完全復帰目標には7月中旬を掲げ、1歩ずつ前に進む。「まずはケガをしないことを目標に。秋田の方が元気になったり、バスケットをもっと見たいと思ってもらえるようなプレーができれば」。自分のため、活躍を願う人のため、何度でも立ち上がる。

◆佐藤(さとう)ひかる 1994年(平6)11月10日生まれ、大阪・堺市出身。三国丘小4年から競技を始める。藤浪中-桜花学園-関西学院大-山形銀行-日立ハイテク。21年5月にアランマーレ秋田入団。174センチ。ポジションはスモールフォワード。コートネームはヒカル。