スポーツを有料で見る。90年代から始まった、お金を払って好みのスポーツを見る文化は、国際的企業の上陸に伴い、地上波無料放送という従来の枠組みから大きく変化を遂げている。配信会社の日本市場の分析、戦略から、変革期に普及を模索する国内競技団体まで。その動向に迫る。第2回は、スポーツ専門の動画配信サービス「DAZN」。16年に日本でサービスを開始した先駆的企業に、書面でインタビューを行った。

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DAZNは世界でも国内でも、スポーツ界に数々のインパクトを残してきた。日本では16年にJリーグと10年2100億円(当時)の大型契約を締結。直近では日本代表のW杯アジア最終予選を配信し、特にアウェー戦は独占配信した。

※以下、回答は松岡けい氏(DAZNジャパン バイスプレジデント コミュニケーション&PR)より。

「全10試合の中で、6試合が歴代視聴ランキングの10位以内にランクインするなど、DAZN史上、最も愛されたコンテンツです(2022年6月2日時点)。特に独占で配信させていただいたアウェー戦の視聴が多かったです」

視聴回数は公表されていないが、1位のオーストラリア戦から上位3位までをアウェー戦が占める。

そもそも国内ではサッカーが主軸で、上位10位は全てサッカー。では、野球、F1、テニス、ボクシング、ゴルフなど、他ジャンルをそろえている強みをどう考えているか。

「幅広いスポーツをお楽しみいただけることで、ご自身のお好きなスポーツの試合がない日でも他のスポーツの興奮を楽しんでいただけることです。実際に、普段プロ野球をメインで見られている方がゴルフの大会を見てくださったり、皆様の関心の高い日本代表戦などは、普段メインで見られているスポーツにかかわらず、幅広く多くのファンの方々に楽しんでいただいている視聴傾向がみられます」

競技を絞らないことで、多層なファンをひきつける。これは世界最大規模の同社ならではの戦略だろう。

16年のサービス開始から6年。提供国は4カ国から200カ国以上に拡大、配信コンテンツ数は世界で約8.5倍に増え、そのうち日本での配信数は約1万2000。約8倍となっている。総ストリーミング時間は10億時間近くで、2.2億時間以上は日本。16年比では約270倍と大幅な増加となっている(※2021年12月時点)。

「日本のユーザーはスマートフォンから視聴するユーザーが多いです。いつでもどこでも好きなスポーツが見られるDAZNの特徴を、日本のスポーツファンの皆様が活用していただいている結果だと考えられます」

近年は、独自コンテンツの充実も進む。コンテンツ制作チーム「DAZN STUDIO」を立ち上げ、サッカー元ブラジル代表のロナウド氏の今を追った『El Presidente』など、ドキュメンタリー作品もそろえる。ユーザーに毎日スポーツを楽しめる選択肢を届け、ファンをつかんでいる。

一方で、有料配信でもっぱら懸念される普及面についてはどうか。無料地上波放送が長く定着してきた日本。この6年間で、有料化がライト層のアクセスを妨げるという指摘もある。ファン層を広げることは“頭打ち”を回避するためにも必須。最後に、その施策を聞いた。

「より多くのスポーツファンにDAZNを知っていただくため、人々がお店に集まり、スポーツ観戦を通じて他者と共に祝い、楽しむ文化を創るというビジョンのもと、日本国内での商業施設利用販売を20年12月より開始しました」

宿泊施設、飲食店、カラオケ、インターネットカフェなど14業界への導入を進め、21年12月時点で1400を超える店舗と契約を結んだという。

また、株式会社ミクシィと組み運営する飲食店検索サービス「Fansta」を21年4月より開始。放映を通してスポーツ観戦できる飲食店を、エリアだけでなく放映予定でも検索でき、今後はプロスポーツチームや各種スポーツ系サービスと連携したプロモーション展開も予定する。

2月には月額を1925円から3000円に価格改定した。強気の一手は、自信の表れにも見て取れる。今後は、どうアクセスしやすさを向上していくか。動画配信の旗手の動向が注目される。【阿部健吾】

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