バスケットボール仙台89ERSは5月16日、B2プレーオフ(PO)を勝ち抜き、16-17年シーズン以来となる6季ぶりのB1復帰を果たした。その裏には新型コロナウイルスに振り回されながらも日々奮闘するフロントスタッフの姿があった。日刊スポーツ東北版は、フロントスタッフとしてチームを支えた木村雫氏(26)、舩山椋氏(24)の2人にインタビュー。21-22年シーズンの苦労や、B1の一員として挑む、22-23年シーズンへの思いを聞いた。【取材・構成=濱本神威】

21-22年も新型コロナウイルスに振り回された。観客数の制限をはじめ、自チームや対戦チームのコロナ陽性判定による試合の延期や消滅が相次ぎ、シーズンの途中に観客数が100%収容可能になるなど、状況は日々目まぐるしく変わった。

舩山氏はシーズンを振り返って、「すごく大変でした。集客を頑張ろうと動いて、企画を絡めて売り上げが良かった時に試合中止。次の試合がいつになるかも分からない。モチベーションの切り替えが大変でした」。中でも2月2日に開催予定だった青森ワッツ戦が印象に残っている。年に1度の塩釜市での開催。節分(2月3日)に合わせて企画した荒尾岳選手の恵方巻きがついた「鬼に金棒シート」は完売。舩山氏は「完売になるくらい人気になっていたので、次の試合(2月19、20日福岡戦)で出そうとしたが、それも中止。やりきれない思いがありました」。シーズンを通して見えない敵に悩まされ続けた。

ホームでのPO開催を狙う4月。東地区2位の仙台は、同3位・福島ファイヤーボンズとの上位対決を前にフロントスタッフの進言で「4000人動員プロジェクト」を実施した。木村氏は「選手はもちろん頑張りますし、チームスタッフも熱く戦っている中で、私たちができることといえばやっぱり(観客の)動員。だから志村(雄彦)社長に『やらせてください』と言いました」。希望は4月16、17日の両方で動員プロジェクトを行うこと。だが、志村社長や上層部との話し合いにより、17日の1日の開催となった。4000人を集客するべく、フロントスタッフは開催直前まで奔走した。

結果は3329人。木村氏は「(人数を)出すのが恥ずかしかった」と唇をかんだ。「駆け回ったものの4000人には届かなかった。私たちの力のなさを感じたのが正直なところです。チームが勝ってくれたから良かったのですが、もし負けていたら、今年の1年は後悔しかなかったと思います」。“4000人まであと少し”とは言えない3329人。「何回か集計し直して本当に3300人なのかと確かめたのですがやっぱり3300人でした…」と力不足を痛感した。舩山氏も「気持ちと数字があまりマッチしていなかった。4000人の観客の方を絶対に入れて、ホームでのPO開催に向けて『その日は絶対に勝つ』という気持ちがあったが、結果は3329人。コロナ(の影響)もあったのかもしれないですが『絶対勝つぞ』という気持ちをもっと皆さまに熱く伝えられていればもう少し増えたかなという実感があります」と振り返った。2人を含め、フロントスタッフには3329人“しか”集められなかった悔しさが残った。

その悔しさを振り払うかのように、チームはホームでのPO開催を決定。勢いそのままに、福島とのPOクオーターファイナルは、第3戦までもつれ込んだ熱戦を制した。香川ファイブアローズとのセミファイナルも第3戦で勝ち切り、見事「B1昇格」。ファイティングイーグルス名古屋とのファイナルも3試合を戦い抜いた。木村氏はファイナルまでチームに帯同。B1昇格決定の瞬間の心境について、「(昇格記念の)Tシャツを選手に配って、記念撮影をして、選手はどのタイミングで(インタビューに)出てきてなど、仕事で感動に浸るどころではなかったです(笑い)」。B1昇格は決まったが、純粋に喜ぶ時間はほとんどなかった。「でも、涙を流す選手の姿や、田中(成也)選手が『本当にありがとう』と握手を求めてきてくれた時に涙が出ちゃいました」。長かったシーズンの苦労が一気に報われた瞬間だった。

10月から始まる22-23年シーズン。B1は2人にとって未知の舞台だ。木村氏は「東地区は強い。ワクワクよりも危機感しかありません」。舩山氏も「B1で戦うということに恐怖しか感じない。選手の力になれるように頑張れるのかという不安があります」と語る。だが、頑張る選手たちにブースターの声援を届けるためにはひるんではいられない。木村氏は「勝つべきところで勝つためにクラブが一丸となれるのは、4000人動員プロジェクトで実感しました。それはこれからの糧になると思うので、チームもフロントも、事業面でも勝てるような1年になればと思っています」と気持ちを新たにした。

B1復帰はゴールではない。舩山氏は「やっとスタートラインに立ったのかな、まだでも立っていないよなといった感覚」と語り、木村氏も「やっとB1。本当にここからだと思います」と「B1復帰」をスタートラインとした。木村氏は「B1はできることの規模感が大きくなり、幅も広がる。事業側としてもステップアップできたらと思います」と力を込めた。選手とチームスタッフ、そして“黄援”してくれるブースターとともに、フロントスタッフもステップアップする。仙台89ERSのゴールはまだまだ先だ。

◆木村雫(きむら・しずく)1996年(平8)2月3日生まれ。26歳。取材時は事業部に所属。19年7月1日入社。

◆舩山椋(ふなやま・りょう)1997年(平9)9月10日生まれ。24歳。取材時は興行運営部に所属。20年4月1日入社。