オリンピック(五輪)非階級の70キロ級に初出場した成国大志(24=MTX GOLDKIDS)が、涙の初優勝を遂げた。母の晶子さん(54=旧姓飯島)との日本勢初となる親子2代Vも達成した。

準決勝がヤマだった。昨年の世界選手権2位、U23では世界王者のエルナザ・アクマタリエフ(キルギス)と対戦。11-10の死闘を制した。6-10と4点ビハインドの残り1分35秒から残り11秒で追いつき、さらに1ポイント奪取で大逆転勝ち。優勝した4月のアジア選手権(モンゴル)決勝で破った難敵を返り討ちにした。

ファイナルではゼイン・レザフォード(米国)に10-0のテクニカルフォール勝ち。全米学生(NCAA)選手権の優勝3度を誇る相手を圧倒し、今大会の日本男子初となる金メダルをつかんだ。「最低限、メダルを持ち帰りたい」と話していた中で頂点に立ち、両拳を握って歓喜の咆哮(ほうこう)。日の丸をまとってマット上をウイニングランし、男泣きした。

母に続いた。尊敬する晶子さんは90、91年に世界選手権の65キロ級で2連覇していた。

「今までは母親が世界チャンピオンとか気にしていなかったんですけど(所属先で)一緒に指導の仕事を始めてみて、あらためて世界女王の肩書はすごいんだなと。コンプレックスだったというか、早く追いつきたい気持ちが強かった」

いつか、と思っていた母子ともに世界一の夢が現実になった。「母ちゃんからは『思い切ってやっておいで』と」。もちろん現役時代の試合映像は見たことがある。「あの時代だからでしょうけど、技術うんぬんより気迫というか、気持ちの面が大きいと試合を見ていて感じましたし、そこは自分もまねしたい」と触発され、快挙に結びついた。

不遇も乗り越えた。小中高大すべて1年時に優勝するほどの有望株だったが、青学大2年時の17年に暗転する。医師から処方された薬に禁止薬物が含まれており、ドーピング検査で陽性反応。1年8カ月もの資格停止処分を受けた。

ようやくの解除後も、新型コロナウイルスの感染拡大で試合に出られず。その間、愚直に肉体を強化するしかなかった。今でも代表合宿以外はスパーリングが週1回という我流のトレーニングを続けている。

まずはアジア王者になった。「自分がやってきた体力強化中心の取り組みは間違っていなかった。外国人にも通用した」。自信を深め、今大会も鍛え抜かれた筋肉にはパワーがみなぎった。がぶり主体のスタイルで勝ち切った。生きざなが正しかったことを世界選手権でも証明してみせた。

男子のフリースタイルでは18年65キロ級の乙黒拓斗以来4年ぶりの優勝。日本の力も示した。右耳から流血し、頭部に巻かれたテーピングが激闘を物語る中、表彰式では思いっ切り目を細めて金メダルとチャンピオンベルトを掲げた。この景色が見たかった。大志を抱き、たどり着いた万感の初出場Vだった。【木下淳】