昨年末に引退を発表した横井ゆは菜(22=邦和みなとSC/中京大)が、決意を胸に競技生活を全うする。1月6日に北海道苫小牧市で行われた日本学生氷上競技選手権(インカレ)で11位となり、「もう1度気を引き締めて、まだまだやるんだっていう気持ちで練習に取り組みます」と誓った。1月下旬の冬季国体(27~31日、青森・八戸市)へ向け、本気でスケートと向き合う。

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17回だった。横井が18分間の取材で、「練習」と言った回数だ。

「練習するにしても、ただ練習するだけになっちゃってたので。気合を入れ直そうと思います。『辞めるのもったいないよ』って言われることを目標に頑張ります」

1月6日。北海道苫小牧市の白鳥王子アイスアリーナ。

深緑の衣装に身を包み、インカレのフリーに臨んだ。

1本目のダブルアクセル(2回転半)は決めたものの、その後は転倒や回転不足のジャンプが相次ぐ。結果は98・15点。フリーのみの今大会は、11位に終わった。

「『完全に気抜いてるやん』『引退だからって、油断してるでしょ』って思われる演技だったので。でもそれは、あながち間違いじゃなくて、自分でも『もう終わりだしな』って緩んでる部分があったので」

飾らない口調はいつもと変わらない。ただ、次々と発せられる言葉は重たかった。引退。終わり。何度もそう繰り返した。

2週間前の全日本選手権。合計161・87点で19位となったフリーの演技後、「今季限りで引退すると決めて全日本に臨みました」と明かした。

22年1月の4大陸選手権に出場し、同10月のグランプリ(GP)シリーズ第2戦スケートカナダでは8位に入った。

そんな中、ジュニア勢の台頭を受け、自身の競技人生を見つめる時間が増えた。4月から就職するメディア関係の企業で、フィギュアスケートの魅力を伝える立場に回りたいとの思いも強まり、引退を決断した。

しかし、全日本選手権以降は、なかなか地に足がつかなかった。

「終える(引退する)って決めても、本当にそうなのかなって。いまいちよく分からない感情で」

どこか浮足立った思いで迎えたインカレ。思い描いていた滑りとは、ほど遠かった。演技を終え、時間がたつにつれて、決意が湧き上がってきた。

「競技を頑張ることは、今しかできないことなので。それを今、やっと感じました。『全日本で感じろよ』って話なんですけど。インカレに出て、さすがにこれは…と。そう思えてよかった。それが一番よかったです」

自分に言い聞かせるように、笑いながらうなずいた。

17回も口にした「練習」というフレーズとともに、「本気」という言葉も3回言った。

「今の自分には本気でやるっていう思いは残ってないと思ってたんですけど、このインカレが終わって、このまま終わるわけにはいかないって思いました。もう1度気を引き締めて、まだまだやるんだっていう気持ちで練習に取り組みます」

所属先の邦和みなとSCには、自分を慕ってくれる後輩がたくさんいる。

結果で示すことは難しいかもしれない。でも、練習で語り見せることは、今の自分でもできる。

「『ゆは菜ちゃん、しぼんでいっちゃったな』って思われたら、悔しいじゃないですか。正直、結果は望めない部分もあるんですけど、練習を見て『あれ、ゆは菜ちゃん、また本気出してるな』って後輩たちに思ってもらえるようにしなきゃですね」

窓の外を雪がちらつく中、横井は身ぶり手ぶりを交え、熱のこもった誓いを立てた。

1月下旬には冬季国体を控える。

ここからの3週間。スケート人生の全てを込め、本気で練習する。【藤塚大輔】