男子100キロ級の21年東京オリンピック(五輪)金メダリスト、ウルフ・アロン(26=パーク24)が6年ぶり3度目の優勝を遂げ、目指す24年パリ五輪へ踏みとどまった。

初戦で熊坂光貴(センコー)を横車の技ありで退けると、続く準決勝も中野智博(早稲田大)から隅返しで技ありを奪って勝利。決勝で、講道館の春日柔道クラブの後輩でもあるグリーン海斗(日体大)の挑戦を受けた。

昨年12月のグランドスラム(GS)東京大会で3位に入った21歳との接戦。延長戦に突入すると、奥襟をつかんですぐの大内刈りを仕掛けた。浴びせ倒し、ビデオ判定の末に、技あり。小さく両手でガッツポーズした。4月からパーク24に移籍したことで、コーチに付いていた92年バルセロナ五輪男子78キロ級金メダルの吉田秀彦総監督も、うなずいた。

その後、主審が誤って相手側に勝利の手を左に挙げてしまった際も「いやいや」と言わんばかりに指を振ってアピールし、場内をなごませた。あらためて右手が挙がって、晴れて優勝者となった。

「ホントあの、このままだと、ちょっと柔道が強い面白い人、っていう風な感じで終わってしまうところだったので、ここで1回優勝することによって、また来年のオリンピック等につながってくるという気持ちを持って、ここでしっかり復活するっていう気持ちを持って、今回はしっかり臨みました」

「体重としては順調に落ちたんですけど、試合の中で体が少しつってしまったりとか、まだうまく調整をすることができなかったので、そういったところが表情に出たのかなというところはありましたけど、そういった中でも最後まで勝ち切ることができたので、また1つ進歩できたかなと思います」

「(初対戦のグリーンカラニは)やっぱり普段からともに練習している仲間ですし、また道場の仲間でもあるので、選抜の決勝で戦えるってところは感慨深い面もありましたけど、先輩として負けられないという意地もあったので、最後、勝ち切れて良かったです」

東京五輪の後、一時は体重が120キロ台まで増えたほど長く休養した。減量の負荷が増したことで力が削がれ、昨年10月の講道館杯で実戦復帰したものの、優勝を逃して3位。同12月のGS東京、世界ランク上位者によるワールドマスターズ(エルサレム)に至っては、ともに初戦敗退。来月の世界選手権(ドーハ)代表切符をつかめずにいた。

五輪V2の権利を世界で1人だけ有している一方、パリ五輪に向けて大きく出遅れていた中、ようやくの頂点。復帰4戦目にして結果を出した。

休養中は柔道普及のため多数のメディア出演をこなしたが、発祥国の伝統競技だけに批判の声もあった。

「ちょっとテレビに出過ぎたなと思ってます、はい」と少し頬を緩めながら「でも、いくら口で言い訳しても結果以上のものはないと思うので、しっかりとここで勝ち切れたのは『あ、柔道も強いんだ』と思ってもらえる1つの要因になったのかなと」と自負を込めた。

21年夏の歓喜から、早くも来夏に迫るパリ五輪へ。すべきことはハッキリしている。

「ここで1つ勝ち切ることはできましたけど、これでパリ五輪に近づいたということは全くないと思うので、これから派遣していただける国際大会でしっかり結果を残して、あと1年ちょっとですけど、そういった中で準備をして、パリでの2連覇に向けて頑張っていきたいと思います」

唯一この階級で五輪2連覇を目指せる男、ウルフが帰ってきた。ただ、ここからが正念場だ。【木下淳】