「かなだい」が16年の時をつなぐ会心の演技を披露した。先月の世界選手権11位の村元哉中(30)高橋大輔(37)組(関大KFSC)が、自己ベストの116・63点をマークした。

会場は高橋が07年の世界選手権で日本男子初の銀メダルを獲得した場所で、当時のフリーは今季と同じ「オペラ座の怪人」。運命的だった最終戦を終え、今後は未定とした。ペアのショートプログラム(SP)は世界王者の三浦璃来(21)木原龍一(30)組(木下グループ)が80・47点で2位。日本は74点で3位、90点の米国が首位を守った。

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村元は覚えていた。「本当に幸せな4分間だった」と感慨に浸ったフィニッシュポーズ直後、手を顔に近づけて一気に仮面をはぎ取るしぐさをみせた。その立ち姿が、07年に高橋が演じた「オペラ座」のフィニッシュポーズとそっくりとファンで話題と知り、高橋に「覚えてたら、やってみて」と演技前に言われた振り付けだった。忘れるわけはなかった。

この日午前の練習を終えると、動画を探した。「すごく見たくなった」。07年世界選手権のフリーの映像だった。当時は仮面をはぎ取ったしぐさの後に、高橋はうれしさに泣いた。この日の2人には笑顔が咲いた。高橋は「哉中ちゃんと2人で、アイスダンサーとして。最高の思い出になった」とかみしめた。

ズエワ・コーチから演目を提案された最初は、驚いた。あまたの選手が極上の作品をしるしてきた王道。結成3季目には早いと迷ったが、挑戦を決め、この日が今季7試合目。息を合わせ、力強いリフトで舞い、気持ちを重ねた。村元は「記憶に残る演技をしたいというのが、1つのスケート人生の目標だった。それができた」と声を弾ませた。

「(まずは)応援に全力を費やして、その後にゆっくり考えられたらと思っています」。高橋は今後について、明るく答えた。いまは運命が引き寄せた幸福な時間に、2人で身を委ねる。【阿部健吾】

◆世界国別対抗戦 通算8度目の国際スケート連盟(ISU)公認大会。2年に1度、世界6カ国から男女シングル各2人、ペア1組、アイスダンス1組の4種目に8人が出て争う。各種目1位12点、2位11点…と与えられ、合計点で優勝国を決定。今大会は日本と米国、カナダ、韓国、イタリア、フランスが参加。SP、フリー(アイスダンスはRD、FD)ごとに区切り、合計スコアの順位はチーム得点としない。一方でISU公認記録にはなる。