男子90キロ級の田嶋剛希(25=パーク24)が、初出場で3位の快進撃で聖地を沸かせた。

初戦の2回戦で星野太駆(23=新潟県警)に、いきなり一本勝ち。登録体重で30キロ重い120キロの相手を一本背負いで豪快に投げると、思わずピョンとはねて喜んだ。

続く3回戦は100キロ級のホープ新井道大(19=東海大)と対戦し、退けた。大内刈りで技ありを奪ってからの横四方固めで合わせ一本。社会人の威厳を、世界選手権(5月、ドーハ)団体戦日本代表の実力を、見せつけた。

続く準々決勝が、今大会で最も沸いた瞬間だったかもしれない。16年リオデジャネイロ五輪(オリンピック)100キロ超級の銀メダリストで、21年東京五輪同級5位の原沢久喜(30=長府工産)に、挑戦。身長は自身の172センチに対して191センチ、体重は90キロと125キロの差があった。減量なしで「現在は93、94キロ」だったとはいえ、階級が2つ上の第一人者を相手に、真っ向から攻めた。

試合開始直後、相手に抱きつく奇襲を仕掛けてベアハグの指導を取られたものの、背負い投げや袖釣り込み腰を仕掛けて巻き返す。指導の数が1-2と後がない状況で、体力も限界に近づき、待てがかかっても即座に起き上がれない死闘となったが、攻めに攻めて指導2で並んだ。

さらに技をかけ続け、延長4分4秒(計8分4秒)になったところで、主審が試合を止めた。防戦一方となった原沢に対し、最後の指導が出る。田嶋が両拳を握った。武道館から降り注ぐ拍手を満面の笑みで受け止めた。

「武道館が好きで。高校選手権も全日本学生も、自分の転機になった試合は武道館が多くて、いいイメージしかなかった。テンションが上がりました。この舞台で行われる全日本選手権に出られただけで、うれしかったです」

「原沢さんとは何度か組ませてもらったことがあるんですけど、どうやって勝てばいいんだ…と何も思いつかなかった。最初は無理だなという思いしかなかったんですけど、もう嫌なことをし続けながら探るしかないなと。その中で袖釣りがいけそうな感覚がありました」

番狂わせを起こした後、準決勝では、さらに大きな145キロの王子谷剛志(30=旭化成)が待っていた。本戦4分間の終了間際。捨て身で勝負をかけた。極限状態の中、決めにいきたい焦りからか、結果的に不用意な大内刈りをかけ、思い切り返され、技ありを奪われ、力尽きた。3分48秒だった。

「最後、強引にいきすぎた。いけると思ってしまった時点で、ちょっと舞い上がっていたのかな。原沢さんとの試合がバテバテで、みっともない姿を見せてしまいましたけど、過去イチの体力の消耗でした。なので、王子谷さんとの準決勝は試合前から吐きそうで、きつすぎて、緊張感ゼロでした(笑い)」

後に、歴代3位タイ4度目の日本一となった相手に反攻するスタミナは残されていなかった。ただ、万雷の拍手と声援に、こちらも過去イチかもしれない手応えをつかんだ。

「普段の柔道と何も変えていないので、それが大きい相手にも通用して、うれしかった。自信になった。悩みながらも、やり続けてきて良かったです」

4月の全日本選抜体重別(福岡)も90キロ級で優勝。この全日本も、体重上限がない中でベスト4と飛躍した。一方で24年パリ五輪の代表選考争いは、世界選手権代表の村尾三四郎(22=JESグループ)に後れを取っている情勢だ。

「今からパリと言っても無理で、村尾選手がこけたりしない限り、厳しいと思う。なので『パリを目指す』と今、自分が言うのはズレている。今後は、海外のタイトルをまず1つトルとか、目の前のチャンスを1つ1つモノにしていくしかない」

現実的に自分を見つめる一方、全日本男子の鈴木桂治監督からも、全日本柔道連盟の金野潤強化委員長からも、絶賛された。

あとは自階級で。望みある限り夢舞台をうかがうに際し、この日のインパクトはとても大きなものとして大会史に刻まれた。【木下淳】