日本のオリンピック(五輪)出場選手は、約3分の2が大卒もしくは現役の大学生が占めてきたという。

一方、その域に達するアスリートは数えるほどで、卒業後も本格的に競技を続けられる人間は一握り。ましてやプロになれる選手など、特にアマチュアスポーツでは、それだけで話題になるくらい限られている。

そのトップ層「以外」を支えたいという人がいる。

建築・建築設備・プラント設備のエンジニア派遣を手掛ける株式会社テクノアーク(東京都港区)の甲賀和生社長(57)だ。

「箱根駅伝を見ていて思ったんです。チーム内の競争を勝ち抜いて10人に選ばれ、たすきをつなぐ姿がテレビ中継に映る人は就職先もあるだろうなと。でも自分は、給水している方々や応援している方々が気になりました。仲間のために裏方となって貢献する一方、就職活動の時間が満足に取れていないのではないか、卒業しても走りたい人がいるのではないか、と」

実際、関係者に聞いてみても肌感覚と合致したようだ。卒業後、アルバイトをしながら競技を続けていたり、引退後の生活が安定していなかったり。

「野球やサッカーはプロがありますし、アマチュアのトップ選手も五輪に出たり各界の日本一になったりすれば、大企業から誘われたり、引退しても指導者や解説になったり、道はあるのかなと。でも大多数のアマチュア選手は、学生アスリートは、引退したらどうしているんだろう。そう思って聞いてみたところ、何とかアルバイトしながら競技を続けたり、燃え尽きるまで競技に打ち込んだ後、30代の半ばになってゼロから仕事を探し始めたり。とにかく何の競技でも、どんなレベルでも、一生懸命な人が好きなので。競技は続けたいけれどプロは無理、でも仕事もしたい、そう両立に困っている人が、かなり数いるのでは、という私の仮説も含め、セカンドキャリア形成に何か貢献できないか。コロナ禍の21年の終わりくらいに考え始め、昨年の秋から本格的に動きだしたところなんです」

まず手掛けたのが、日本トライアスロン連合へのスポンサード。協賛金を通じて活動を支えるところから始め、自社でも正社員雇用という形で選手を受け入れる方針を固めた。

「アマチュアの中でも、社会人のトップを目指す人もいれば、愛好家として続けていく人もいる。どんな理由でもいいんです。競技を続けつつ、うちの仕事で手に職を付けてもられば、活動資金や将来への不安がやわらぐでしょうし、スポーツを続けやすくなるのでは。引退しても、そのままの仕事でバリバリ働けますし、余裕で70歳ぐらいまで働ける仕事ですから」

業務は、建築・建築設備・プラント設備の図面を書いたり、施工管理をしたりする内容という。

「取引先の建設会社、プラントメーカーに派遣するエンジニアも、現在220人ぐらい当社は抱えているんですけれども、そのうち8割は、実は理系とか技術系の学校を卒業した人材ではございません。文系や、他業種から転職してこられた初心者が多く、弊社では一から教育して一人前になってもらいます」

建設現場といえば過酷なイメージも根強いが「うちは職人さんの会社ではないので、建築など直接の作業をしてはいけないんです」と甲賀社長は強調する。

「CAD(コンピューター支援設計)を用いて書き上げた図面を現場へ持っていき、職人さんに指示したり、工事のスケジュールを管理することが仕事。あくまで施工管理で、けがを現場でしてしまうとか、よほどのことがない限り起こり得ない環境です」

心身が資本のアスリートにとって、体調管理への影響は最小限。他方、運動経験者は重宝される業界だ。

「工事現場は広いですから、iPadを持って歩き回りますし、写真を大量に撮るのも体力が必要。まだ建設途中の場合、エレベーターが稼働していませんから5階とか7階とか、自分の足で何度も往復しないといけませんし。管理側ですけど『やっぱ体育会いいよね』という声は、ちょうだいします。ルールもね、ちゃんと守れる方でなければいけない。その点、上下関係がしっかりしていますから、スポーツ系は歓迎される向きはありますよね」

年齢は問うていない。続けてきたスポーツ、取り組んでいる競技を「やり切った」という30代でも40代でも構わない。

「我々(支援対象として)新卒だけを探しているわけではなく、例えば、先ほど話した30代の半ばという方がもしいたとして、これからも頑張って競技会に出たいけれど、やはり将来のことを考え始めて仕事との両立も始めたい、という方がいらっしゃれば、ぜひ弊社に興味を持っていただきたいと思います」

本腰を入れた採用は今後整備していくが、今春、まず2人の女子バスケットボール選手が仲間入りした。

「この4月に43人の新入社員を迎えたんですが、その2人が、女子大と地方の大学から来てくれて。平日は働きながら実業団のバスケットボールチームでプレーしています」

入社1年目から、練習に参加するための融通を受けられる企業風土という。

「練習は水曜日と土日にあるそうなんです。最初のうちは研修であったり、慣れるまで仕事優先の時もあったりしますが、試合が近くなれば、現場の所長さんにこちらから話して、休みをもらったり、早退したりすることは可能です。新人でも遠慮なく、その時々の話し合い次第で」

もちろん正社員という2人は、東日本地域リーグのチームに加入。大学卒業後も競技を続けたいという夢を社としてサポートする。

「練習や試合も大事な時期、シーズンがあるでしょうから。よほど竣工が近い時は応相談ですが、いずれにしても話をしてくれれば現場と調整します」

また、社の特徴として「男社会と想像されているかと思いますが、半数以上が女性なんですよ」とも明かした上で、置かれた環境の異なるアスリートを支えていく思いを口にした。

「トップクラスの選手は放っておいても、たくさんの援助を受けられるでしょう。自分は、そこ以外。競技レベルは問いませんし、実績も必要ありません。とにかくスポーツが好きで、頑張ってきた人であれば支えたい。来春は60人ほど採用する予定ですし、極端に言えば、今すぐにでも100人くらい雇えます。競技と生活の両立を考えている人を、当社はこれからどんどん応援していきます!」【木下淳】