フィギュアスケート男子で、北京五輪銀メダルの鍵山優真(20=オリエンタルバイオ/中京大)が15日、福岡市のオーヴィジョンアイスアリーナ福岡で公開した練習で、4回転フリップに成功した。

「誰も降りるだなんて思ってなかったので、僕自身ですら降りると思ってなかったので。意識的に降りたというよりかは、気づいたら降りてたっていう感じだったんですけど」。

思わず振り返る声が弾む。練習の終盤だった。踏み切り地点を指さして確認すると、軌道に入っていった。右足のトーをついてふわっと浮き上がると、着氷まで実に滑らかに弧を描いた。会心の1本にガッツポーズして、リンクサイドで見守ったコーチの父正和さんとタッチして喜びあった。

左足首の故障の影響で、22-23年シーズンは苦しい時間を送ってきた。4回転フリップへの挑戦は、出場した昨年前の全日本選手権前のこと。約半年、それも2月に本格的に練習を再開してから、これが初めての挑戦だった。

「そもそも、今日、やるつもりなくて。でも、父が『そろそろ』って言っていて。今日のことじゃないんですけど、4回転もう1種類やっときたいねっていう話もしてたので」。

3回転での浮き上がり方に好感触があったフリップを跳ぼうと考えたという。

福岡は大会で訪れた18年以来。拠点の愛知から、短い期間だが環境を変えて、来季への準備を進めている最中だった。同地の選手の他、頼ってくれた年下のスケーターも一緒だった。

米シカゴに暮らす17歳のスケーター、篠原泰良。SNSでのつながりはあったが、3月に練習に参加したい連絡を受けると快諾。篠原の一時帰国に合わせて、ともに練習していた。

「僕にとってもすごく新鮮な気持ちで。他の子とあんまり一緒に練習するっていうのはなかなかないんですけど、こういう機会をいただくことによって、すごくお互いがいい刺激をし合って、僕自身もすごく強い、高い気持ちで練習に臨むことができるので、すごくいいんじゃないかなって思ってます」。

そんな高揚感も、フリップの成功の助けになったかもしれない。

シーズンインまであと数カ月。5月中旬からは4回転サルコーも再開しており、この日の曲かけでも見事な跳躍を披露した。フリップを2本目の武器に、今後はケガを負った左脚の状態を見ながらトーループも加えていく方針だ。

「グランプリシリーズまでには2本を入れたい」。

初夏を迎えた博多。その場所で決めた1本が、復活のシーズンの道標になる。

【関連記事】フィギュアニュース一覧>>