【ブダペスト=藤塚大輔】21、22年と日本選手権を2連覇した黒川和樹(22=法大)は自己ベストの48秒58をマークし、パリオリンピック(五輪)の参加標準記録(48秒70)を突破した。来年6月の日本選手権で上位に入る必要があるが、東京五輪に続く2大会連続の五輪出場に前進。レースは2組4着で決勝進出は逃したが、大舞台で快走を見せた。

「いつか(参加標準を)切れるかなと思っていたんですけど、切れてとりあえずホッとしていますね。あとは来年の日本選手権でしっかり決められれば。でも日本選手権に照準を合わせるというよりは、パリ五輪に照準を合わせて、パリが最終目標と焦点を置いてできればなと思っています」と、すがすがしい表情を浮かべた。

選手紹介ではトレードマークのメガネ姿に微笑を浮かべ、観客席に手を挙げてアピールした。前半は連覇を狙うドスサントス(ブラジル)に並ぶペースで飛ばし、後半も粘った。

今季は調子が上がらず、6月の日本選手権では予選敗退で3連覇を逃した。「寝たら忘れるタイプなので3日くらいたったら忘れました」。一瞬は笑顔で振り返ったが、胸の内では王者としての重圧を抱えていた。

「3連覇したいって気持ちが強すぎて、意識しすぎてたなって」

日本選手権後は思い切ってスパイクをアシックスの厚底シューズに変え、肉体強化にも励んだ。体重は66キロから5キロアップ。「ちょっと走って一生ウエートしてました」と上半身は厚みを増した。「自分らしくテキトーな感じでしていたら気持ちが楽になった」。今大会に向けても力感なく臨み、児玉悠作、岸本鷹幸が予選敗退する中、存在感を見せつけた。

05年大会で銅メダルを獲得した為末大以来の決勝には届かなかったが、今は楽しさに包まれる。

「ずっと何か抱え込んでいたというか、気にしすぎていた部分があるので、それがなくなって、何かめっちゃ楽しいです。吹っ切れたっす。ここでPB(プライベートベスト)出せて良かったっす」

黒川らしいゆったりとした口調で、目を細めて言った。ブダペストで感じた思いを、パリへの糧としていく。