フェンシング女子サーブルの世界選手権2連覇女王が2024年パリ五輪(7月26日~8月11日)イヤーを迎え、新年の誓いを立てた。江村美咲(24=立飛ホールディングス)が新春インタビューに応じ、日本勢の「個人初」「女子初」「種目初」となる金メダルを目指す覚悟を表明。前回21年東京五輪のサーブルで個人&団体2冠のロシア勢が復帰を認められたが「以前の私とは違う」と進化を見せつけ、頂点へ突き進む。

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フェンシングの発祥国フランスで、世界V2剣士の江村が未知の扉を開く。日本がまだ見ぬ個人の金メダル。男子フルーレ太田雄貴(08年北京五輪)は銀、女子とサーブルに至っては表彰台にも立てていない。その中で「日本初」の期待を背負い「もちろん目指すは個人と団体の金メダルなんですけど」と言うと、うなった。「うーん。まだまだ弱い自分に勝てなくて。そこを打ち破らない限りは結果もついてこないし」。弱気に聞こえて、しかし言葉には覇気がある。「でも反対に打ち破ることができれば、どんな結果であれ納得いく。相手以前に、自分に勝ちたい」と力を込めた。

21年、この競技で日本初のプロ宣言。実業団に入らず、立飛HDを筆頭に複数社からの支援で競技に専念する。22年、W杯制覇。23年、世界ランキング1位。次々「日本初」の称号を手にしてきた。170センチの長身から繰り出すロングアタック、駆け引きが武器だ。

昨年7月には、レジェンド太田でも届かなかった日本初の世界選手権2連覇を遂げた。「周囲の期待が1回目以上に大きかった分、試合前にのしかかる重みは全く違うものでした」。左足甲の痛み、右上腕三頭筋の肉離れにも耐えて2度目の世界一。「去年が偶然ではない」と自信を深めた。

その後、左足甲の状態が悪化。昨年9月の全日本選手権と杭州アジア大会(中国)で個人戦の欠場を余儀なくされた。11月のアルジェリアW杯は9位、翌12月のフランスGPは発熱もあって17位。一方で焦りはなく「完璧主義、休みは悪という考えをやめて自然体のバランスを探っています。勝負と質、どちらにこだわり過ぎても良くない」と案配を見極めている段階だ。

半年後の夢舞台、敵も強い。最新の世界ランク1位バルゼ(江村は3位)ら開催国フランスだけでなく、国際オリンピック委員会(IOC)が先月、ウクライナ侵攻で除外していたロシア(ROC)のパリ大会参加を「個人の中立選手(AIN)」として認めると発表。21年の東京五輪、サーブル種目の金メダルは個人も団体もロシア勢だった。

「戻ってきたら厄介な相手」。警戒はするが、その後2連覇の自負が上回る。同国が国際舞台から姿を消す前と比べ「昔の自分と今の自分は全然違う」。いちフェンサーとして思う。「剣をまじえてみたい」と。

年明け早々、チュニジアGPへ遠征。まずは後半戦に突入する出場権獲得レースを勝ち抜き、金メダル最有力候補として勇躍、パリへ向かう。1924年以来100年ぶりに五輪を迎え入れる花の都で「美」しく「咲」き誇れ。【木下淳】

◆江村美咲(えむら・みさき)1998年(平10)11月20日、大分市生まれ。父宏二さんは88年ソウル五輪フルーレ代表。北京五輪で代表監督として太田を日本初の個人銀に導いた。母孝枝さんもエペの世界選手権代表。小学3年で始め、JOCエリートアカデミー(大原学園高)から中大。16年リオ五輪はバックアップ。東京五輪は個人3回戦敗退、団体5位。W杯とGPのメダル数は7(金1銀3銅3)。スポーツフードスペシャリストの資格を持つ。ミス日本の特別顕彰も受賞。右利き。血液型A。

◆フェンシング競技パリ五輪への道&本大会展望 昨年4月3日から今年4月1日までの五輪代表選考レース=W杯、GP、各大陸&世界選手権で獲得したポイントや開催国枠で出場212選手(個人60、団体152)が決まる。江村の世界ランクは23年12月時点で3位。1位のバルゼは東京五輪で団体銀メダル。2位はグクンドゥラ(ギリシャ)で、江村が東京五輪3回戦で敗れたブルネ(フランス)が4位。日本は団体9位。試合日程は7月27日~8月4日。1900年パリ万博の主会場だった美術館グラン・パレで行われる。