ラグビー日本代表は2日、ワールドカップ(W杯)日本大会の1次リーグ第3戦サモア戦(5日、愛知・豊田スタジアム)に向けて、都内で調整した。

「笑わない男」こと、プロップ稲垣啓太(29=パナソニック)はこの日、金星を挙げたアイルランド戦で涙を流した写真が話題になっていることについて「泣いたことない」と完全否定。寡黙な仕事人は気持ちを切り替え、初の8強へ臨戦態勢を整えている。

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「笑わない男」は「泣いたことない」と言い張った。世界に衝撃を与えたアイルランド戦の勝利から4日。あの日、稲垣が試合後に目頭を手で押さえながらラブスカフニ(クボタ)に肩を抱かれる姿がファンの間で話題になっている。小学校の時、少年野球の監督に「試合中に歯を見せるな」と言われてから忠実に無表情を貫く29歳は、この日、都内での会見で「確かに反響は大きかったが、泣いたことない」ときっぱり否定。それも無表情で言い、会場にいた70人超の報道陣からは笑いも飛んだ。

気持ちは既に5日のサモア戦へ集中している。目標の8強へ向け「まだ何も成し遂げていない。意味のある勝利だったけど、目標達成の1つの過程にすぎない」と強調した。「動けるプロップ」として世界基準の運動量を誇り、スクラムの要としてチームを支える。

アイルランド戦では1つの“結果”を残した。前半19分、1度目のスクラムで日本が反則を取られた。しかし、稲垣は冷静に「レフェリーの解釈の問題もある」と仲間に促した。同35分の相手ボールのスクラムでは、自分たちを信じて8人が低く固まって押し続け、思惑通りに反則を誘発。「自信になった」と手応えを口にした。サモア戦ではこれまで以上の巨漢FWを警戒し「体重を生かしたスクラムを、いかに組ませないかがカギになる」と分析した。

地元の新潟への愛情が深く、常に故郷への感謝の気持ちを忘れない。先月には母校・新潟工高のグラウンドの天然芝化に伴う費用の約300万円を寄付した。スパイクには「NIIGATA」の文字を刺しゅうした。究極の漢(おとこ)を追求する稲垣はこう言う。「W杯はお世話になった方へ恩返しをする場でもある。日本代表、新潟代表として8強の結果にこだわりたい」。新潟魂を胸に、笑わず、泣かず、チームのために体を張り続ける。【峯岸佑樹】

◆稲垣啓太(いながき・けいた)1990年(平2)6月2日生まれ、新潟市出身。新潟工高-関東学院大-パナソニック。14年に日本代表入り。代表31キャップ。愛称はガッキー。186センチ、118キロ。血液型A。