もっと、できるー。元日本代表コーチの沢木敬介氏(48=横浜キヤノンイーグルス監督)は接戦のサモア戦をあえて厳しく振り返った。代替先発のSH斎藤直人に及第点を与え、前半のチームパフォーマンスを評価しながらも、アルゼンチン戦、さらに日本代表の未来に向けてさらなる進化を求めた。

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先発した斎藤は悪くなかった。テンポのいいパス回しでプラン通りにプレーした。難しいW杯という舞台を考えれば、よくやったといえるだろう。ただ、この程度で満足して欲しくはない。ラック周りのパス判断のスピードや多様なパターン、キックの精度など、もっとできるはずだ。これから日本の攻撃の中心になっていく選手だからこそ、このレベルのプレーは当然。より高みを目指してほしい。

直前のメンバー変更が、チームに影響を及ぼす場合もある。代役の斎藤も流に負けない力があるから、ゲームプランの遂行などは問題なかったはず。ただ、チームの雰囲気をどう持っていくかは難しい。選手たちは斎藤と福田というフレッシュな選手に期待し、メンバー変更をポジティブに受け止めた。だからこそ、チームへの影響は最小限に抑えられた。

結果的に勝ったことはよかった。ただ、試合の運び方には課題が残る。前半は相手に攻めさせながらも試合をコントロールし、プラン通りのキックの使い方でリードを奪うなど、完璧な内容。後半も最初のトライを奪うなど日本ペースのまま楽に勝ち切れる試合だった。ところが、14人の相手に逆襲され、最後まで分からなくなった。

簡単に勝たせてくれないのがW杯とはいえ、残念な展開だった。後半3つ目のトライを奪った後、サモア陣深く攻め込みながら、ミスによってとどめを刺せなかったことが大きい。ここでトライを奪えなかったことで、逆に相手にチャンスを与えることになった。80分間試合をコントロールすることも、強いチームの条件になる。

アルゼンチンはチリに勝つだろうから、アルゼンチン戦は勝ち点などに関係なく「勝ったほうがベスト8」という非常に分かりやすい試合になる。フィジカルの強さを武器にシンプルに攻撃してくるサモアに比べ、アルゼンチンはFWとBKが一体となり多彩なアタックを仕掛けてくる。サモアより力があるのは間違いない。

まずは相手のアルゼンチンの攻撃に対応し、粘り強く守ることが大切。我慢比べにもなる。相手にはいいキッカーがいるだけに、テリトリーを獲得することも重要になってくるだろう。日本が得意とする速い展開に持ち込むことができれば、勝機もでてくる。(横浜キヤノンイーグルス監督)

◆沢木敬介(さわき・けいすけ)1975年(昭50)4月12日、秋田・男鹿市生まれ。秋田経法大付(現ノースアジア大明桜)高、日大を経て98年にサントリー(現東京SG)入り。SO、CTBとして活躍。日本代表7キャップ。06年から6年間サントリーでコーチを務め、13年にU20日本代表監督就任。15年W杯では日本代表コーチングコーディネーター(CC)として南アフリカ戦勝利に貢献。16年にサントリー監督に就任し、16、17年トップリーグ連覇。20年はスーパーラグビー「サンウルブズ」でCCを務め、20年から横浜監督。昨季はチーム過去最高3位。