世紀の不可解判定だ。ロンドン五輪金メダリストで同級2位村田諒太(31=帝拳)が、同級1位の元世界王者アッサン・エンダム(33=フランス)に挑んだ世界初挑戦は、4回にダウンを奪うなど優勢とみられたが、1-2の判定負け。五輪メダリストとして日本人初の世界王者には届かなかった。本人は不平を口にしなかったが、帝拳ジム本田明彦会長や周囲からは疑問や怒りの声が噴出した。

 不可解な判定の原因は、ジャッジ2人(パナマ、カナダ)と1人(米国)に分かれた採点基準にある。審判3人は序盤にエンダム、中盤に村田を支持。分岐点は終盤9回以降の採点だ。

 7回終了時で判定は村田の2-0。8回は足を使ったエンダムに3人がポイントをつけた。判定は2-1となったが、村田だった。

 問題は残りの4回だ。村田が圧力をかけて重いパンチを出し、エンダムが足を使って軽いパンチを出す展開が繰り返された。世界戦を107試合裁いた元レフェリーの森田健氏(82)は「私の採点で村田の勝ち。ただ今の採点基準はあいまいで、有効打をとる審判と手数をとる審判に分かれる。今回は手数をとる審判が2人いた」。手数派の2人はすべてエンダムに、有効打派の1人はすべて村田に採点が真っ二つに割れた。

 ではなぜ分かれたのか。ここで村田がダウンをとる前の3回の採点が顔を出す。この回に村田は手数は少ないながらワンツー(有効打)をヒットした。ただ審判2人はエンダムの手数をとっている。そのまま採点傾向が終盤も続いた形だ。ただエンダムは手数で村田を上回っていたが、ほとんどが堅いガードでブロックされてヒットしていない。

 採点で最重要視されてきたのは有効なクリーンヒットだが、森田氏は「当たってなくても手数が多い方が試合を支配しているとみるジャッジがいる。以前は年に1度、団体の総会で審判がビデオを見て勉強する機会があったが、最近は知らない」という。採点競技にとって採点基準の統一は最低限の条件だ。あいまいな基準はボクシングそのものの価値を下げる。【益田一弘】