試合前々日の激しい風雨で、きれいに咲き誇っていた桜の花は散ってしまったが、19日、試練の場鳴尾浜球場にふさわしい新鮮な花が咲いた。四国IL・徳島との交流戦。阪神は3人の新人投手がそろってプロ入り初登板。将来、柱になるべく片りんを見せてくれた。

 登板した順に紹介しよう。先陣を切って6回にマウンドへ上がったのは194センチ、90キロ、ドラフト8位の藤谷洸介投手(21=パナソニック、右投げ右打ち)。続いてはこれまた長身、188センチ、79キロ、ドラフト3位才木浩人投手(18=須磨翔風、右投げ右打ち)。3番手はドラフト4位入団の浜地真澄投手(18=福岡大大濠、右投げ右打ち)。現時点ではまだ“海の物”とも“山の物”ともつかない存在だが、素材は文句なし。まさに磨けば光る原石だが、この日の注目すべきは素材のみにあらず。むしろ、チーム方針の「ストレートだけ」に球種を限定したマウンドだ。結果はどう出たか。球速が最速148キロで2つの空振りを奪う好投を見せた才木と、同147キロ、スピンの効いた力強いストレートで3人で片付けた。浜地の両高卒ルーキー2人に的を絞ってスポットを当ててみた。

 ストレート勝負-。確かに球は速い。球が生きている。簡単には打たれない力はあるようだ。いくら相手が独立リーグのチームとはいえ、世の中にピッチングマシンが出回ってからというもの、バッティング練習は、その気にさえなればいつでも自分で納得がいくまで打ち込むことができる。練習量は半端ではない。当然のごとくバッティング技術は想像以上にレベルアップしている。現に、球速150キロ超のストレートでもバットの芯で捉えることは普通にできる。現代野球で1イニングであっても直球1本で相手を牛耳るのは並大抵のことではない。ヘタをすると格下の相手にメッタ打ちにされ、自信を喪失する恐れさえある。首脳陣はわかっているはずなのに、あえて勝負した。その意図は…。

 3投手を指導している育成担当の福原ピッチングコーチもコーチ業は1年生。話を聞いてみた。「チームの方からもストレート1本で勝負させてみよう。という要望がありましたので…。確かに近頃のバッティング技術を考えると、多少の心配はありましたが、よく話をして『打たれてもいいから思い切って勝負してこい』ということでマウンドへおくりました。3人とも良く投げましたね。マウンドでバタバタして落ち着きのない一面を見せるのではないかと思っていましたが、想像以上のピッチングをしてくれました。いいスタートは切れましたが、まだまだこれからですよ」まだ若い。道のりは険しい。かぶとの緒を締め直すあたりは、さすが、よくわかっている。

 私も面白い方法だと思った。勝負の世界だ。弱肉強食の世界だ。育成方法はいろいろあるが、過保護は禁物。それより、1番気になるのは登板した当人たちの気持ちだ。高卒ルーキーの2人に登場してもらおう。まずは才木「空振りの取れるストレートがテーマでした。一応空振りの三振が2つ取れましたし、テーマに近い球が投げられたと思います。福原さんからもいいフォームで投げていたと言っていただきましたし。まあ良かったと思います。直球勝負ですか。あまり気にしていませんでした。」とさらりと言ってのけた。一方の浜地「いかにキャンプでやってきたフォームで投げられるかがテーマでした。まあ、自分の感覚としては、スピンの効いた球もありましたし良かったと思います。ストレート勝負ですか。途中でチラッとここで変化球を投げたら面白いな。と思ったぐらいで別に気になりませんでした」いたずらっぽく笑っただけ。大きな問題ではなかったようだ。

 練習試合とはいえ、他チームとの試合はプロ入り初登板。ピカピカの1年生には過酷な方針かと思われたが、この世界には「与えられた試練は自分に打ち勝つチャンスだと思え」の言い伝えがある。ネット裏では坂井オーナーが観戦していた。今回の結果は“吉”と出たが、この先もっと、もっと厳しい試練が待ち受けているだけに、苦難に負けず阪神の大黒柱に成長してほしい。

浜地真澄(2017年4月19日撮影)
浜地真澄(2017年4月19日撮影)
藤谷洸介(2017年4月19日撮影)
藤谷洸介(2017年4月19日撮影)