強竜ファンにすれば「ここまでやったのに止めるのか…」という思いも募ったかもしれない。それでも独断で言って申し訳ないが、あの3ランで、まず決まりなのは野球好きなら分かるのではないだろうか。
それほど衝撃的な佐藤輝明の1発だった。ライナーでフェンス直撃か。そう思ったら、そのままスタンドイン。雨も無縁のすさまじいパワーだ。まるで“ノー感じ”の三振もするがこんな1発も打てる。異能の男。それが佐藤輝だ。
それと比較すれば、あまりにも地味なのだが、それでも重要なプレーがあったのを虎党なら見ていたかもしれない。それは4回、中日の攻撃時に出た。先頭のカリステがこの試合2安打目となる中前打で出塁。続く4番・中田翔の打席だ。
佐藤輝に負けないパワーの持ち主である中田の当たりは大きな中飛。降りしきる雨を気にしながら中堅・近本光司が捕球した。次の瞬間。ハーフウエーから一塁へ戻っていたカリステがタッチアップで二塁へ猛ダッシュした。
そのまま猛烈なスライディング。タイミングはセーフのように見えた。だがぬかるんだグラウンド状況でそのまま勢いが止まらず、滑ったままオーバーランしてしまう。送球を受けた木浪聖也が冷静にタッチ。カリステもかわしながらベースに触ったがアウトに。敵将・立浪和義がリプレー検証を求めたが判定は変わらなかった。
これは大きい。カリステはいいアイデアだったと思う。「こういう状況だからなんとか先に1点」と指揮官・岡田彰布も勝利監督インタビューで繰り返していたが、どうにかして先制したい…というのは両軍の思いだっただろう。
もしもセーフになっていれば1死二塁。先制チャンスが広がっていたところで、それを未然に防いだということだ。繰り返すが内野手としては普通のプレーだろう。だが、隙を見せず、キッチリやったことでピンチの目をつんだ。
「しっかり見ていたね。褒めてもいいんじゃないでしょうか」。内野守備走塁コーチの馬場敏史はそう言った。誰にもできないことをやるのは素晴らしい。同時に誰にでもできることをしっかりやるのも勝つためには必要なのだ。今季初の甲子園6連戦を前に期待した通り、5勝1分けと一気に息を吹き返した阪神は首位浮上。大目標へここからが大事である。(敬称略)