華やかなプロ野球の世界には、最前線でプレーする選手らを支える多くの人がいる。日本におけるスポーツ・エンターテインメントの最高峰の中で、誰がどのように関わっているのか。「プロ野球のお仕事」第1回は日本ハムの2軍本拠地、千葉・鎌ケ谷で球団職員ながら〝生身のゆるキャラ〟として奮闘する「DJチャス。」を紹介します。

(2016年5月17日付紙面から)

ファンサービスをするDJチャス。(写真は2015年8月16日)
ファンサービスをするDJチャス。(写真は2015年8月16日)

 梨畑に囲まれた、のどかな雰囲気の鎌ケ谷で異彩を放つ男がいる。紫色のスーツ姿がトレードマーク。時に竹刀とマイクを手に持ち、グラウンドにも登場する。2軍戦の試合前の1コマ。「おじさん、今日も元気だね。応援頼むよ ! 」。常連のファンに気さくに声をかけつつ、滑らかなトークで場を和ませているのが「DJチャス。」だ。実は日本ハムの球団職員だが、なぜ人前に出ているのか? 「お客さんを笑顔にしたいだけなんです」。


生身のゆるキャラ

 文字通り、体を張ってプロ野球に関わる仕事の本質を追求する。14年3月に登場した球団職員兼〝生身のゆるキャラ〟の正体は、中原信広さん(49)だ。肩書は首都圏事業部ディレクター。2軍本拠地の鎌ケ谷だけでなく、東京ドームでの1軍主催試合でのスポンサー営業やイベント運営にも関わる。近年、両球場で水着アイドルが始球式を務める恒例イベントの仕掛け人の1人。チームが本拠地を北海道へ移転する前から在籍するベテラン社員だ。

 かつては1軍で広報を務め、落合(現中日GM)の専属広報を務めたこともある。06年に人事異動で鎌ケ谷が仕事の舞台となった。「2軍は選手育成が主だけど、その中で試合を興行として成り立たせることも重要。さらにプロ野球チームとして地域貢献も大切なこと。すべて、2軍だからというのは関係ない」。

 20年前に開場した施設は「スカウティングと育成」を掲げるチームの最重要拠点。若い選手の才能を伸ばすだけでなく、自前の球場だから出来る、さまざまな集客アイデアを実施する。かつては外野スタンドに砂浜が登場したり、今ではプールも設置するなど積極的な仕掛けで話題を振りまきながら、集客に力を入れる。集客力が高まれば、新規スポンサーの獲得につながる。将来の主力を目指す若手選手に成長を促すであろう、緊張感ある環境でのプレー機会を提供することもできる。

 「DJチャス。」も紫のスーツを脱げば、一営業マンだ。球団職員として転機となったのは、10年6月に赴いた米国で目の当たりにした光景だ。球団の研修の一環で渡米し、主にマイナーリーグや独立リーグの試合を観戦。衝撃を受けた。「向こうには、名物職員みたいな人が結構いる。スタッフが生き生きと働いていた。どんどん前に出ていた。こういうファンサービスもあるんだ、と」。

 鎌ケ谷の観客動員は、09年にイースタン・リーグ記録を更新する5万人を突破。10年には7万人を超えたが、以降は横ばい状態。現状打破のため、中原さんに白羽の矢が立った。普段から来場するファンと積極的にコミュニケーションを取り、グッズ販売の店頭に立てば行列ができたことも。類いまれなトーク力と実行力。「オレは、どう思われてもいいんだよ」という献身さも相まって、人前に出る異色の球団職員によるキャラクターが誕生した。

 今では周辺地域のイベントに「DJチャス。」として参加したり、講演を頼まれることもある。「2軍という土壌は、球界としてもあまり足を踏み入れていない領域。毎日、やりがいを感じている」。球団とファン、地域住民とをつなぐ潤滑油として、紫の衣装を身にまとう。【木下大輔】