<センバツ高校野球:甲子園練習>◇18日◇甲子園

 第84回選抜高校野球大会(21日開幕、甲子園)に21世紀枠で出場する石巻工(宮城)が甲子園練習を行った。松本嘉次監督(44)の「全員がポジションにつける」という考えで、異例の紅白戦を敢行。震災を乗り越えて憧れのグラウンドに立った選手は、はつらつとプレーした。21日の開会式で選手宣誓を務める阿部翔人主将(3年)は、チームメートと話し合い「感謝」をキーワードに全国へメッセージを届けることを決めた。同校は2日目の22日、第3試合で神村学園(鹿児島)と対戦する。

 夢のような30分は、あっという間に過ぎていった。憧れの黒土を踏み締めた瞬間、阿部主将の脳裏には震災直後のことが浮かんでいた。1年前には想像も出来なかった甲子園。「いろいろなことが思い返されました。本当にここにいるんだなと。本当に野球の神様はいるんだな」と、ようやく実感がわいた。

 守備練習に時間を割く学校が多い中、練習は異例の紅白戦から始まった。登録18人の主力と控えが15分。松本監督は「(感覚を)一番つかめるじゃないですか。全員がポジションにつけるし、思い出になる」と意図を説明した。中前打を放った奥津庸介遊撃手(3年)は半袖でプレーし「体がボッと熱くなった。すごく広いの一言」と興奮気味に振り返った。

 例年、3月には大阪に遠征してきた。ネット越しにセンバツを観戦し「5メートル先なのに遠かった」という松本監督は「(選手たちは)いい顔してましたね」。昨年5月にボールを送ってくれた春日丘(大阪)が応援席から見守る中、元気よく動き回る選手をじっと見つめていた。

 全国に届けるメッセージも決まった。以前から選手宣誓を務める予感があったという阿部主将は「感謝」をテーマにナインから意見を募った。「震災で自分たちは諦めなくなった」「日本に希望、勇気、いい笑顔を届けよう」「感謝の言葉しか出てきません」など、それぞれの思いがホワイトボードを埋めていった。2日かけてまとめ「被災者の気持ちなどを表現していた」(松本監督)という内容に仕上がった。阿部主将は「自分たちの言葉が、宮城、石巻を代表すると思うので」と自覚を示した。

 エース三浦拓実(3年)は帰り際、おしりのポケットにそっと甲子園の土をしまった。「おやじに渡そうかな」。支えてくれた家族、地元、そして支援してくれた全国に向け、言葉とプレーで思いを届ける。【今井恵太】