<全国高校野球選手権:東海大相模3-0土岐商>◇16日◇3回戦

 東海大相模(神奈川)のドラフト1位候補右腕、一二三慎太投手(3年)が、1安打完封で8強一番乗りを決めた。土岐商(岐阜)戦に先発し、8回の先頭打者に左前打を浴びたが、最速147キロの速球を軸に6奪三振4四死球で投げ切った。打っても4回に先制点につながる左翼線二塁打を放った。同校の8強は巨人原辰徳監督(52)が2年生だった75年大会以来35年ぶり。同年は準々決勝敗退で、偉大な先輩超えまで、あと1勝とした。準々決勝の組み合わせは17日に決まる。

 ほんの一瞬、一二三は悔しそうな表情を浮かべた。8回の先頭打者、土岐商の代打伊藤への初球。外角高め132キロの直球を合わされ、左翼・伊集院の前にポトリと落ちた。「『あっ』と思ったけど、完封してやる!

 ってすぐ気持ちを切り替えました」。98年、横浜・松坂(現レッドソックス)以来の夏の甲子園ノーヒッターは途絶えたが、2つの犠打で招いた2死三塁のピンチはきっちりと左飛に打ち取った。

 9回112球を投げて、安打はわずか1本。1時間30分で、初戦15得点の土岐商を無失点に抑えた。2回戦水城(茨城)戦は制球に苦しみ8四死球を出したが、この日は4つと半減。いつも決めている「真っすぐで攻めていこう」という投球がやっとできた。スライダーを減らし、チェンジアップさえ投げることなく直球で押した。3回にはこの日最速の147キロをマーク。右打者には積極的に内角を突き、4回の3者連続を含む11個のアウトを内野ゴロで取った。「甲子園で納得のいく投球は、センバツを入れても初めて」と初の1安打完封に満足げだ。

 中4日のマウンド。リリースポイントのマイナーチェンジが、大記録まであと1歩の好投を呼んだ。アンダースロー気味だった2回戦を反省し、2日前から腕を約15センチ上げた。「球がシュートしにくくなる。自分の調子のいい位置で投げればいいんです」と話す。体の開きを抑え、抜け球が減ってストライクが先行するようになった。終速も落ちない。変化球に頼ることなく、直球を信じることができた。俳優柳葉敏郎のおいで、ブルペン捕手の佐藤は「今日の練習で一二三さんの球を捕ろうとしたら、ホップして網の部分のひもが伸びきりました」と球の伸びに驚いた。

 5月まで上手投げの投手がサイドスローになれば、肩の可動域や上体の使い方も変わる。柔らかい肩の筋肉は、500ミリリットルのペットボトルで培った。小学生時代から、チューブの代わりに水を入れたペットボトルを持って、肩甲骨周辺のインナーマッスルを鍛えてきた。「水の量とか振る位置でいろいろパターンがあるんですよ」と、大阪入り後も続けている。

 たまった疲労は、宿舎前の銭湯にある日替わり湯で癒やす。2回戦前日は「ヒアルロン酸湯」につかり、2ランを放った。前日15日も験を担ぎ「ハイビスカス湯」に入浴。サウナと水風呂にも入り、入念に体を休めた。効果があったのか、打撃でも4回1死走者なしから先制の2点の足掛かりとなる左翼線への二塁打を放つなど4打数2安打で、通算打率を6割6分7厘とした。

 同校の8強入りは、巨人原監督が2年生だった75年以来35年ぶり。最後の打者を左飛に打ち取った一二三は、喜ぶそぶりを見せず整列に向かった。「これで終わりじゃない。まだまだ次がある」と表情を引き締めた。高校屈指の右腕の目に、少しずつ全国の頂点が見え始めた。【鎌田良美】