口をついたのは喜びでなく、感謝の言葉だった。

 初勝利を挙げ、楽天大久保博元監督(48)は「このような人間が監督をやらせてもらって。ファンの方々だったり、いろいろな人に感謝しかない」とかみしめた。多勢の報道陣から求められると、照れくさそうにウイニングボールを掲げた。

 まさに「デーブ野球」を見せた。まず、掲げる「超機動力野球」を見せつけた。3―0で迎えた4回。先頭打者の後藤が出塁すると、迷わずに動いた。続く嶋の打席でエンドラン。右前打から一、三塁とすると、藤田が右犠飛で4点目を挙げ、試合をほぼ決めた。盗塁も4個記録し、積極性と緻密な戦略で得点を重ねた。「目指す野球が徹底的に出来た」。9回は守護神に任命した松井裕が3者凡退で、きっちり試合を締めた。「嫌な空気を全部消してくれた」と投打の読みがさえ渡った。

 命をかけて采配を振っている。10年に2軍打撃コーチを務めていた西武を解雇された。尾ひれがつき、事実とは違う報道であっという間に悪者となった。「俺みたいのが生きていちゃいけないんだ」。外に出られない状況が続き、酒に酔った勢いで首をつろうとした。カーテンレールに洗濯用のロープをくくったが、体重の重みでレールが壊れた。見えない力に生かされた。「多分、まだ死ぬなってことだったんだよ。でも、そこからいつ死んでもいいように、毎日を全力で悔いのないように生きることにした」。周囲の雑音は聞こえなくなった。