阪神西岡剛内野手(31)、涙のサヨナラだ。同点に追い付いた9回1死一、三塁、右越えのサヨナラ安打を放った。西岡はお立ち台で、涙をこらえ切れなかった。また、江越大賀外野手(23)は第1打席に左翼席へ3号ソロ。3試合にまたがる「3打席連続本塁打」をマーク。執念あり、記録的アーチあり、金本阪神の甲子園初戦は、単独首位に立つ、劇的な夜になった。

 金本監督が両手をたたいてベンチを飛び出した。ヒーロー西岡が鳥谷に誘導されて監督と向き合うと、2人が笑顔で抱き合った。「何か絵に描いたようなドラマみたいな試合でしたね」。甲子園初采配で9回サヨナラ勝ち。しかも巨人が敗れて初の首位だ。決めたのは監督が愛してやまない西岡だった。

 1点を追う9回だ。守護神中崎を攻め、福留が1死から左前に落ちる幸運ヒットで出塁するとゴメスも中前打。さらに鳥谷のボテボテ投前ゴロが、一塁交錯する幸運内野安打で同点だ。2度のラッキーで一、三塁となり、監督が西岡に声をかけた。

 「お前が決めろ」。そして助言も付け加えた。「差し込まれ気味だからタイミングを早く取っていけ」。いきなり追い込まれたが141キロをとらえて右中間を破り、両拳を突き上げた。

 「でも2ストライクまでは差し込まれ気味で人の話を聞いているのかと思った(笑い)。でも最後はノーステップでね。タイミングが合わない時は経験を生かして。さすがですね」。監督が舞台裏を明かすと西岡も笑った。「もうサボり大魔王じゃないぞと言いたいです」。2月キャンプからイジられてニックネームをちょうだいしたが、また絶妙の掛け合いで爆笑だ。

 だが西岡には秘めた思いもあった。お立ち台で涙をこぼしそうになった場面。招待していた両親が視線に入ったという。「けがをしてもうやめたいとなった時、両親がもう1年だけユニホームを着ている僕を見たいと言ってくれて」。この2年、肋骨(ろっこつ)骨折や右肘故障などで戦力になれず、引退も覚悟した。「喜んでいました。久々にあんな顔を見たし、それが一番うれしいです」。

 西岡の感動的な1本でチームは初の首位に立った。金本監督は「そうなんですか。まったく何も考えていないし、どうでもいいと言うとおかしいですが…。寒い中、見に来てくれたお客さんが最初と最後に盛り上がってくれてそれが一番うれしい」。劇的勝利にも満足せず、今日も勝つ。【松井清員】