第71回希望郷いわて国体、軟式野球(成年男子)は神奈川県代表・日立オートモティブシステム厚木(株)が47年ぶり2度目の優勝を果たした。歓喜の輪には、入部13年目の加藤重之外野手(36)の姿があった。「感無量です。高校以来の優勝ですが、こんなにうれしいとは…」。この日の出番はなかったが、今大会では守備固めとして出場。ベンチからの「声出し」で枯れてしまった声を弾ませ、優勝の喜びを噛みしめた。

 加藤重之。この名前を聞いてピンとくる人もいるのではないだろうか。高校時代はエース松坂大輔(現ソフトバンク)を擁する横浜高校で「2番・センター」として甲子園春夏連覇を含む4冠を達成。50m6秒の俊足と、遠投110mの強肩を持つ「いぶし銀」のスイッチヒッターとして活躍した。加藤はその後、日大硬式野球部を経て、03年に日立厚木に入部。大学時代に負ったケガの影響で硬式の道を諦め、地元・神奈川で軟式の企業チームに進んだ。その日立厚木でも、ポテンシャルの高さを発揮した加藤は、昨年キャプテンを務め、チームを国体準優勝に導いた。

 「準優勝と優勝はゼンゼン違いますね」。全国制覇は高3の秋以来。「4冠」で締めた1998年かながわ国体以来となる。公式戦44勝無敗という輝かしい戦績を残した高校時代は「自分は地味な存在。他にスターがいっぱいいたので」と謙遜する。晴れ舞台で脚光を浴びることよりも、日陰で咲くことを好んでいた高校時代。「打球がこないから松坂の後ろを守るのは楽チンでしたね」と懐かしそうに笑う。その松坂の10年ぶりの1軍登板(2日・楽天戦)は、岩手県内の宿舎でニュースを見たそうで「僕らの世代も過渡期に来ているのかな。でもマツのことは陰ながら応援していますよ」と、言葉を選びながらエールを贈った。加藤も今年36歳。20代に比べてケガが多くなり、加えて慢性の腰痛も悪化したこともあり、今シーズンを最後に現役引退を決めている。「700gのバットが重くて振れない。もうボロボロです。有終の美を飾れてよかったです」。日本一を果たし、そして引退。浅黒く焼けたその顔には、「日陰」で長く咲き続けた誇りと、すがすがしさが広がっていた。【樫本ゆき】