遅れてきた「宮本イズムの継承者」が決めた。ヤクルト荒木貴裕内野手(29)が同点の9回2死満塁で人生初のサヨナラ満塁弾を放ち、連敗を阻止した。今季から背番号を「10」に変更。背水の思いで挑む年に、入団年から宮本慎也氏(46=日刊スポーツ評論家)らとともに自主トレを行っている愛媛・松山で結果を残した。4月2日にも鵜久森がサヨナラ満塁本塁打を放つなど、シーズンで2本の劇弾はセ・リーグ初。ミラクル燕が上昇気流に乗る。

 バットを振り切ると、天高く右腕を突き上げた。荒木は打球の着弾点を見る前に喜びを爆発させた。「外野が前だったので抜けたかなと。入ったところは見ていないが抜けたのは分かった」。チーム屈指のイケメンの笑みがはじけた。

 中日大野の制球が定まらず、3四球で塁が埋まった。荒木も2球、ボールが続いた。四球待ちになってもおかしくない状況だったが「空振りでもいいと割り切った」と3球目の142キロをフルスイングし、左翼席中段へ運んだ。「体が震える。わき上がる喜びがあります」と、人生初のサヨナラ打を満塁弾で飾った。

 「宮本イズム」がようやく花開いた。小学校から主将を歴任。近大、そして09年の日米大学野球でもチームをまとめた。形容される言葉は「努力の人」。プロ入り後は思うように結果を残せず、投手、捕手以外をこなすマルチプレーヤーとなった。今季は背番号を「24」から「10」へ変更。同年齢の川端がブレークする中「今年ダメならアカン」と背水の思いを持っていた。

 育てられた場所が力をくれた。宮本氏が行っていた松山の自主トレにプロ1年目から参加。川端、中村、山田らと教えを受けた。坊っちゃんスタジアムで目いっぱい練習すると「権現温泉」の湯につかってリフレッシュするのが定番コース。今回の遠征も初日に自主トレメンバーとともに温泉へ行き、汗を流した。「カレーを出してもらいました」と、母親が作るような昔ながらのドロッとしたカレーをほおばった。

 思いの深い場所で見せた1発。本塁を踏むとチームメートから水やスポーツドリンクをかけられ、思い切り祝福された。宮本氏譲りの努力をみんなは見ていた。「お世話になっている人に昨日、今日と足を運んでもらった。恩返しができた」。「坊っちゃん」ゆかりの地で青シャツの竜を一振りでぶちのめした。【島根純】

 ▼荒木が満塁サヨナラ本塁打。荒木にとっては満塁弾、サヨナラ弾ともにプロ入り初めてだ。今季のヤクルトは4月2日DeNA戦で鵜久森が代打満塁サヨナラ本塁打を打っており、シーズン2本の満塁サヨナラ弾を記録したのは84年近鉄(加藤、柳原)88年阪急(藤田、福良)に次いで史上3球団目。セ・リーグでは初めて。13年目の鵜久森が通算11本目、8年目の荒木は通算8本目が劇的な1発と、本塁打にはあまり縁がない2人でセ・リーグ初の記録をつくった。なお、ヤクルトの満塁サヨナラ本塁打は68年ジャクソン、82年岩下、01年稲葉、13年畠山、17年鵜久森に次いで6人目。