これぞエースの投球だ! 巨人菅野智之投手(27)が首位阪神を力でねじ伏せた。7回無死一、二塁のピンチを招くとギアチェンジ。高山、上本、糸井を3者連続三振に仕留め、自ら招いたピンチを切り抜けた。7回無失点でリーグトップの6勝目を挙げ、プロ入り通算50勝を達成。109試合目での到達は、上原、江川、堀内に次ぐ球団史上4番目の速さ。今季唯一の黒星を喫していた宿敵にリベンジし、ゲーム差を3・5に縮めた。

 まだ余力が残っていた。100球を超えた最大の勝負どころで、菅野が鬼の表情になった。小林の適時二塁打で先制した直後の7回。安打と自らの犠打野選で無死一、二塁を招き、力を出し切る覚悟を固めた。「正直しんどかったですが、自分で招いたピンチ。自分でけりをつけないと。腹をくくれました」。高山を内角低め151キロ直球で見逃し三振を奪う。上本にはこの日最速153キロを挟み、カットボールで空振り三振。最後は糸井を151キロ直球で空振り三振で3連続三振と抑え込み、敵地のマウンドで全力でほえた。

 底を見せない。初回からマウンドに違和感を覚え、3回まで毎回の走者を背負い53球を要していた。4回からノーワインドアップをセットポジションに変更。「いつもの甲子園と違った。セットの方がしっくりきたので」と5番原口以下を3者凡退に抑え、自力で流れを引き戻した。

 三塁を2度、二塁を4度踏まれながらも最後は力でねじ伏せた。「そういう時のために余力を残して、ギアを上げる練習をしてきましたから。いつも通りです」と積み重ねがあった。日々のキャッチボールに入る直前、菅野は淡々とテニスボールで壁当てを続ける。公式球の半分以下、60グラムに満たない軽いボールを丁寧に、全身を使って制球する。無駄な力が抜けて、リリースの瞬間に力を集約させた時にだけ、鋭い回転のかかった伸びのあるボールが放たれる。この繰り返しで、全力投球でなくとも強く正確なボールを投げる感覚を追求してきた。「コツをつかんできました」と、勝負の6連戦初戦で地道な積み重ねを実らせた。

 エースの自覚が自身を進化させ、気づけばまた1つ記録が残った。「勝ちは自分の力だけではどうにもならないもの。節目なので、もう1回チームに感謝したいです。自分を見つめ直して、もっと勝てるようにしたい」と50勝目をかみしめた。お立ち台の最後には「交流戦の開幕は自分が行くと思うので、チームに勢いをつけたい」と、30日の楽天戦を強烈に意識した。巨人を背負うエースの背中が力強い。【松本岳志】