<ソフトバンク6-1日本ハム>◇24日◇福岡ヤフードーム

 ソフトバンク山田大樹投手(21)が日本ハム戦に先発し、育成出身ではパ・リーグ初の白星を挙げた。9回途中まで完封ペースの力投を見せ、8回1/3を6安打1失点でチームの連敗を6で止めた。育成で入団したものの左ひじ手術などにも苦しんで1度は自由契約になった苦労人が、育成で再契約して1軍切符をつかみ、総崩れの先発陣の救世主になった。

 小走りでマウンドを降りた山田は帽子を脱ぎ、188センチの長身を折り曲げてベンチと観客席へ一礼した。わき上がる拍手が背番号34を包み込んだ。9回1死134球で力尽きたが、8回1/3を6安打1失点。胸の内には、完封と完投を逃した小さな悔しさと大きな充実感があった。「最高です。ホッとしました」。最後を締めた摂津から受け取ったウイニングボールは、ズシリと重く感じた。

 攻めた。恵まれた体格を存分に生かし、直球を投げ下ろす。25個のアウトのうち13個が内野ゴロ。最速は142キロでも、球速以上にキレで打球を殺した。21歳の若さそのままに、感情も爆発させた。7回2死一塁、糸井を直球で空振り三振に仕留めると、グラブをたたいて「ヨッシャッ!」とほえた。「強い気持ちで臨めた」。6連敗で沈んでいたチームも奮い立たせた。

 育成出身投手の勝利はリーグ初の快挙となった。「ウチにもいっぱい育成選手がいる。元気ややる気のもとになれたら」。かつては「121」の背番号を恥ずかしく思ったこともあった。前回18日西武戦の登板前には、新聞で気になる記事に目がとまった。相手先発の涌井が「気が抜けちゃう。相手が相手だから」と屈辱的な発言。「あのクラスに言われても仕方ない」。冷静に受け止めたつもりだったが、試合では4失点KOでプロ初黒星を喫した。胸に秘めた悔しさは、この日のマウンドにぶつけた。

 3度目の先発。負ければローテ落ちの逆境で見事に結果を出した。「連敗を止められたのは大きい」。秋山監督も「本当にいい投球をした」と目を細めた。前日まで6試合連続で4失点以上を喫していた先発陣の悪循環も止めた。

 育成時代の汗がしみ込んだ3ケタ背番号のユニホームは、今は茨城・つくば市の実家に眠っている。「もうどこにあるかも分かりませんけど」。過去を振り返ることはない。この日に手にした記念の1球も、両親のもとへ送るつもりだ。お立ち台で声も高らかに誓った。「やっと1勝できました。『次の試合も勝ちたい』『その次の試合も勝ちたい』という気持ちでやっていきたい」。王球団会長から「同じ背番号34の金田さんを目標にしてほしい」と400勝左腕の名前を出して期待される大器。サクセスストーリーは始まったばかりだ。【太田尚樹】

 [2010年6月25日8時19分

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