<オープン戦:日本ハム3-12阪神>◇21日◇札幌ドーム

 すまんな佑ちゃん…国民的ヒーロー右腕を真弓阪神がKOした。3回、早大の先輩である3番鳥谷敬内野手(29)の三塁打まで13安打を集中して9得点。ブラゼル、金本、林威助、平野と2安打ずつを浴びせた。結局、18安打12得点で貧打の不安を解消。最終オープン戦を大勝で締め、12球団トップの成績でシーズンに向かう。

 勝負の世界に情けはいらない。とどめを刺したのは大学の先輩だった。3回表2死一、二塁。鳥谷が140キロ直球を完璧にとらえた。打球は札幌ドームの広々とした右中間を抜けていく。2点を追加する三塁打で、日本ハム斎藤佑樹投手(22)の先発デビューは9失点となった。

 「1回だけじゃ、何とも言えない」。

 鳥谷は7学年下の後輩をかばったが、数字は残酷だ。静まり返った敵地がプロの洗礼を表していた。

 黄金ルーキーとの対決を誰よりも楽しみにしていた。鳥谷自身も入団1年目の04年、キャンプ地で早朝6時過ぎの散歩から大勢の報道陣に囲まれた。サインを求めるファンは100人を超した。冷静なルーキーもこのときばかりは「スゴイ」を連発したものだ。

 だから、斎藤の気持ちが痛いほど分かる。今年2月の沖縄キャンプでは食事し、話を聞いた。「1年目だし自分のことで大変だと思うけど、人を集める力、注目させる力がある」。器の大きさを認めるだけに、鳥谷も先輩として真剣に向かった。

 同じ3回の2打席目には、鋭い当たりの右前打を放っていた。鬼気迫る全力プレーには、もうひとつ理由があった。この日は「東日本大震災」の被災者を支援するチャリティーマッチ。鳥谷はチームで1人だけ2日連続で募金活動を行った。試合前にセンターのコンコースまで出向き、寄付してくれたファンに頭を下げた。選手会長の責務をグラウンド内外で果たした。

 「(状態が)いいかどうかはシーズンが始まってみないと分からないが、悪くはないと思う」。

 斎藤VS猛虎打線は昨年末に梨田監督が提案していた。最終オープン戦での実現。真弓監督はベストに近いオーダーを編成し、開幕にはずみをつける考えだった。ヒール役に徹し、3回で13安打9得点は申し分のない結果と言える。「ホームランも出たしな…」。オープン戦序盤は打線が低迷したが、昨年の爆発力を取り戻しつつある。最終戦の勝利でオープン戦の“優勝”も決定。みんなのヒーローをめった打ちにして、真弓阪神が11年シーズンの足場を固めた。【田口真一郎】