<横浜2-0日本ハム>◇23日◇横浜

 こんな悲劇があるのか…。日本ハム武田勝投手(32)が、雨の横浜戦(横浜)で7回5安打2失点の力投も、両リーグワーストの5敗目を喫した。防御率1・88の安定感ながら、空回りする味方打線の援護はなく、登板5試合連続で完封負けでの敗戦投手となった。68年ぶり2人目、50年の2リーグ分立以降では、初の珍事に泣いた。

 また負けて、男を上げた。悲劇的な“珍記録”を打ち立てた武田勝は、痛快に家路に就いた。駐車場に停車した愛車の助手席で陽子夫人を待たせ、気丈に敗因を分析。終えると、自称“かかあ天下”の左腕は「とっとと帰ります!」と、おどけながらシートへ体を預けた。「どうせなら100年、200年、抜かれない記録をつくります」と悲運を笑い飛ばしてみせた。

 永遠に続くような負の連鎖と、また向き合った。落とし穴は4回。昨季までの同僚森本に、内角高めに甘く入ったスライダーを左翼席へ運ばれた。味方の拙攻にも耐え忍んでいた7回、2点目を献上した。「何とかゲームをつくれた」。及第点を与えられる7回2失点の内容。今季2度目の100球超えの力投は、この日も黒星に終わった。

 登板5試合連続で打線が無得点。抜群の防御率1・88も両リーグ最多5敗目を喫した。チーム今季5度目の完封負け、そのすべてに見舞われた。すでに勝利投手の権利はなかったが、9回2死一塁で主砲小谷野が右翼フェンス直撃二塁打。嫌なジンクスを断ち切るチャンスも、一塁走者の糸井が三塁をオーバーランして憤死。梨田監督が「マサルの時は点が取れん…」と絶句する、象徴的なゲームセットを迎えた。

 それでも武田勝は誰も責めず、敗因の矛先を自分に向けた。「1点の重さというか…。自分もチームの流れを悪くしてしまう投球をしているんで。打開しないといけない」。先制点を与えたことを、嘆き続けた。この日は打席に立てるセ本拠地での今季初登板。前日22日は「自分で打ちますから」とジョーク交じりに発奮も、かなわず。有言実行で3回1死一塁で犠打を決めてチャンスをお膳立てしたが、自軍スコアボードは微動だにしなかった。

 運命を呪わず、また未来へ目を向けた。昨季14勝のチーム勝ち頭は「みんなに申し訳ないくらい『悪い』とか言われる。気にしないで今まで通り、普通にプレーしてくれればいい」と、逆に気遣った。社会人シダックス時代に師事した、名将・野村監督はこう野球を説いた。「勝ちに不思議な勝ちあり

 負けに不思議な負けなし」。プロへの道筋をつくり、いまだ敬愛する恩師の金言の域を超えた。不思議な負けあり-。武田勝は名投手に成長した証しの“珍記録”を刻んだ。【高山通史】