<中日1-6ヤクルト>◇25日◇ナゴヤドーム

 頼れる「ジャイアン」が窮地のチームを救った。ヤクルトの3年目、赤川克紀投手(21)が9回1失点のプロ初完投でチームの連敗を4で止めた。中日に3連敗して迎えた大一番。2年間は1軍登板1試合ずつだった左腕は、6回1死まで無安打投球で5勝目を挙げた。8月から先発ローテーション入りして9月は4連勝と“救世主的活躍”で、月間MVPの最有力候補に躍り出た。2位中日との差は2・5ゲーム。残り21試合に10年ぶりの優勝を懸ける。

 成し遂げた仕事の大きさを、誰よりも分かっていないのは赤川自身だったのかもしれない。初完封まであと1人の9回裏。2死二塁から谷繁に中前適時打を浴びた。動じずに、続く平田を遊ゴロに打ち取る。勝利の瞬間、マウンド上でほくそ笑み、ハイタッチの輪に加わった。ひょうひょうと131球を投げ抜き、チームのピンチを救った。

 平成2年生まれ。緊張とは無縁の新人類だ。中日に3連敗し、敗れれば、0・5ゲーム差に迫られていた。試合前、小川監督が緊急ミーティングを行い「開き直って戦おう」と呼び掛けた。極度の緊張感と戦うはずの試合だが、赤川は「連敗はしていたのですが、それは気にせずに開き直って投げようと思ってました。負けても首位が入れ替わるわけじゃないですから」。指揮官の言葉の意味を、リラックスと解釈。いつも通り、相川のグラブを目がけて無心で腕を振った。

 右打者の内角を正確に突いた。131球中、140キロ超えは7球だけ。6回以降は0だった。ナチュラルにカット気味に変化する直球に、昨年から覚えたツーシームで打者の芯を外す。

 2回無死からブランコを内角への134キロで捕邪飛に打ち取った。最速は142キロだが、球の出どころが見えにくく、打者からは球速以上に速く見える。微妙に動くボールが持ち味。「真っすぐのコントロールがうまくいった」と、中日打線を5安打に封じ込んだ。

 これで9月は4連勝で月間MVPの最有力候補になった。184センチ、92キロの巨体で、プロ入り後ついた愛称は「ジャイアン」。派手で豪快なイメージだが、荒木チーフ兼投手コーチは「良さはマイペースで、のほほ~んと投げられること。緊張感がない」と“鈍感力”を評価する。本人は「どちらかというと、ジブリの方が好きです…」とポツリ。ジャイアンが登場する「ドラえもん」より、宮崎駿監督の映画「魔女の宅急便」のリピーターだ。

 由規が右肩痛で離脱する中、2年先輩の増渕よりも先にプロ初完投を達成。8月18日のプロ初勝利から、ローテーションを守り続ける。初勝利の前こそ緊張で寝付きが悪かったが「今は寝られないことはないです」。相川は「こういう試合で、臆することなく投げられるのがすごい」とたたえた。

 練習後は、熱い風呂と水風呂を5分ずつ交互に30分以上入って、疲れを取る。あとはぐっすり眠ってリラックスする自然児。「5勝の中で、結果的に一番うれしい勝利でした」と、最後までひょうひょうとしていた。一躍シンデレラボーイになった「ジャイアン」が、チームを救う勝利を呼び込んだ。【前田祐輔】