<オープン戦:阪神2-2巨人>◇11日◇甲子園
3月の甲子園でスクイズ!
オープン戦なのに、まさに高校野球のような執念の1点だ。1点を追う9回裏1死三塁、和田豊監督(49)の負けん気の強さに上本が応えた。宿敵巨人も仕掛けて失敗した作戦を、きっちりやり返した。阪神のオープン戦スクイズは04年までさかのぼるほど珍しいが、虎の将は言う。「目には目を-」。これが勝負のおきてだ。
伝統の一戦という最高の舞台で、和田監督が進むべき道を示した。1点を追う9回裏。小宮山が右安と失策で二塁ベースを踏んだ。一塁ベンチの指揮官が、動く。途中出場の俊介にバント。そして1番上本の初球だ。スクイズのサイン。バランスを崩しながらもきっちりと投前に転がし、2つの犠打で同点に追いついた。
和田監督
キャンプからやってきたことをね。上本は3打席目に失敗している。もう1度、というところでね。向こうも早くに仕掛けてきた。目には目を、じゃないが、こういう取り方になってくる。
一連の攻撃には、和田イズムが凝縮されていた。ひとつは、上本にリベンジの機会を与えたことだ。5回裏無死一塁の場面で、送りバントを失敗。結果は右飛で進塁打も打てなかった。上本は小兵ながらパンチ力のある選手。それでも小技は求められる立場だ。必ずできるようになる、という思いをこめて、再びサインを出した。上本自身もベンチからの指示を予感していた。「もしかしたら、出るのかと思って打席に立った。食らいついていこうと思った」。
さらに宿敵への情念が、指揮官を突き動かした。3回には巨人松本哲がスクイズを試みた。ファウルで不発に終わったが、この攻撃に感じるものがあった。
和田監督
逆に言うと、向こうもそういう野球をするというのを、見せてきている。打力と言われるチームがね。
村田やボウカーら攻撃力アップを怠らなかった巨人でさえ、機動力を生かした野球を忘れていない。阪神も同じ攻撃型のチームではあるが、1点にこだわる野球をあえて強調したスクイズとなった。
評価できるのは、これが1点を追う9回裏の攻撃という点だ。簡単には負けない。チームのオープン戦スクイズ成功は、04年3月29日のヤンキース戦以来。瀬戸際の状況で、異例のサインに選手は応えた。攻守ともに緻密なプレーを目指し、キャンプから取り組んできたが、その姿勢が実を結びつつある。
和田監督
もちろん。これだけ寒い中で、ファンの皆さんも最後まで応援してくれている。最後の最後で見せ場を作れた。
底冷えの甲子園で2万人ものファンが声をからして声援を送ってくれた。巨人にはオープン戦と言えども負けるわけにはいかない。虎ひと筋の指揮官だからこそ、演出できた執念のドローだった。【田口真一郎】
◆和田監督のスクイズ練習
昨年の秋季キャンプ2日目、無死一塁から4アウトになるまで、バントだけで得点を競うゲームを実施。スクイズの場面で森田がバットを引くと「何で引いたんや!」と、片岡打撃コーチの怒号も飛ぶ真剣モードだった。シート打撃でもスクイズを指示し、和田監督は「年に何回もできないが、それもあるよ、ということ」と説明。春季キャンプのシート打撃でもスクイズを実践させた。ちなみに、和田監督自身も現役時代、野村監督の1年目、99年のオープン戦オリックス戦でスクイズを決めている。
▼阪神のオープン戦でのスクイズ成功は、04年3月29日の日米親善試合ヤンキース戦(東京ドーム)の2回、1死一、三塁から赤星がセーフティースクイズを決めて以来8年ぶり。国内球団との対戦では、00年3月5日オリックス戦(倉敷)の9回1死二、三塁で、田中が捕前に決めて以来12年ぶり。