<中日1-2巨人>◇14日◇ナゴヤドーム

 巨人が劇的な逆転勝利で、首位攻防戦第2ラウンドを制した。0-1の9回1死一、三塁で、休養でベンチスタートだった阿部慎之助捕手(33)が代打で登場。左中間に逆転適時二塁打を放った。主将が一振りで中日守護神岩瀬を打ち砕き、9回に同点に追いつかれて引き分けた前日の仕返しに成功。ナゴヤドームで18戦負けなしだった中日に黒星をつけ、ゲーム差を今季最大の4に広げた。

 これぞ野球だ。9回、筋書きのないドラマがあった。0-1の1死一、三塁、マウンドには中日守護神岩瀬。敗戦の色が濃くなりつつある状況で、休養のためベンチスタートだった阿部は代打で登場した。「最悪でも外野フライ」の狙いも、簡単には打たせてもらえずフルカウントになり、7球目。投げて来るのは内角か、外角か。阿部は集中力をさらに研ぎ澄ませた。「(内外)半々でいって、高めが来たから飛びついたって感じだった」。外に逃げるスライダーに、体はしっかりと反応した。

 打球はぐんぐん伸び、左中間を割った。一塁走者の藤村も生還し逆転に成功した。目の前で起こった劇的なシーンに、3万8366人の観客からは大歓声と悲鳴が交じる。黒星を白星に一振りで変えたヒーローは「頭を越えるとは思わなかった。ああいう結果になってうれしい」と満面の笑み。切り札を最後の最後まで残す采配が的中した原辰徳監督(53)も「最後、大将が決めてくれました」と大仕事に笑顔を見せた。

 阿部にとって、忘れられない1試合がある。5月8日、宇都宮でのDeNA戦。2点差に迫られた9回2死二塁で捕飛を落球した。その後に同点とされ、目前だった勝利は消えた。阿部1人の責任ではない。それでも責任感の強い主将は「大変申し訳ないプレー」と自責の念に駆られた。

 だが、うつむくだけで終わらなかった。「ある意味、あれがあったから今がある」。東京ドームのロッカーに、落球シーンの写真を貼った。新聞での勝敗表を見るたびに「あと1勝、あったのにな」。あらためて痛感した、1勝の重み。あの1勝が戻ることはない。それでも、負けを消すことはできる。濃厚だったこの日の1敗を、阿部が一振りで消し去った。原監督は「バッティングってのはやはり、気持ちが重要なのかなあと感じます。いいところに投げられたからダメでしたというのではね」と、阿部の劇的な一打に精神面の充実ぶりを見て取った。

 9回に追いつかれた前日の借りを返し、中日のナゴヤドーム無敗神話も止めた。阿部は「知っていたんですけど、なかなか勝つのは難しい。勝てたことをうれしく思います」と1勝をかみしめた。チームは24カード連続負け越しがなく、2位との差は今季最大の4。独走態勢に入りつつある。

 阿部も首位打者をキープする。それでも、はっきりこう言った。「良い形で勝ったので、明日につながるように切り替えて頑張ります」。油断することなく、チームとともに最後までトップで突っ走ることしか、頭にはない。【浜本卓也】