楽天の事情通、楽天小山伸一郎投手(35)と嶋基宏捕手(28)が、歓喜の初優勝を語り尽くした。球団創設から所属する小山伸にとって、優勝は中日の2軍時代以来。嶋は7年目で初めてだ。投打のリーダーが、球団初優勝への道のりを、赤裸々に打ち明けた。【取材・構成=金子航、斎藤庸裕】

 嶋

 ビールかけ、最高っすね!!

 小山伸(以下、小)

 この仲間たちとできたのがうれしい。ビールは涙でしょっぱかったな。自分、涙もろいんで。

 嶋

 若いやつも、ベテランもみんなが声を出してつかんだ優勝です。

 小

 みんな、1年間「バカになろうぜ」ってノリノリだったよな~。今みんなが同じ方向にいってるよ。だから監督も「ともに、前へ」ってスローガン出したんでしょ。みんなで前向いていこうって。

 嶋

 ミーティングだって、負けてもまた明日頑張っていこうって感じ。

 小

 オレ、グッとくる試合があってさ。7月26日のロッテ戦ね。(田中)将大が9回まで投げたけど、1-2で負けていた。9回裏に1死満塁までつないで、(松井)稼頭央さんの押し出し四球で同点。あの時、リリーフ全員がベンチで応援していたんだよな。続く嶋がファウルで粘って。ベンチ前では将大が延長に向けてキャッチボールしている。何かドキドキしながら見ていた。そうしたら嶋のサヨナラ打が出た。将大の14勝目。オレ感激して…。これで優勝だったら泣いているだろうなって思った。

 嶋

 僕は、8月後半(23~25日)、5連敗した後のロッテ3連戦がターニングポイントだと思いますよ。3連敗したら2位後退。ロッテは連勝で勢いづいてた。その初戦で将大がすごい球を投げた。1点リードの6回2死二、三塁。ピンチに代打福浦さん。外角に156キロの直球がズバッと決まって空振り三振。あの1球で流れが変わった。チームに勇気を与えましたよ。すっげーこいつみたいな。その後、3点入れて勝った。あそこの1球ですよね。

 小

 もうさ、沢村賞みたいに「田中将大賞」作ってもいいよね。月間MVPも5月から全部取ってる。田中の冠つけて、名前残した方がいいでしょ。

 嶋

 今年のポイント、もう1つありました。小山さんの丸刈り(※1)。立花社長も感心してました。「監督が『あいつは俺が喜ぶことを知っとるわ』と言っていた」って。

 小

 結果残してないから、責任取っただけだよ。

 嶋

 監督、就任して初対面の時は、ビビッたな~。

 小

 中日の時は鉄拳制裁もあったからな。殴られて、出血を隠すためにマスクして帰る選手もいたよ。今は怒鳴るだけ。悔しそうな時、「でいくそ!」(※2)って言ってる。

 嶋

 あれ、どこの地方の言葉ですかね(笑い)

 小

 何だろうね。

 嶋

 僕、監督に1度も殴られたことないですよ。

 小

 楽天の選手は誰1人、殴られてないでしょ。聞いたことない。

 嶋

 コーヒーメーカーと灰皿はよく殴られてます。

 小

 若い選手からしたら、近寄りがたいし、怖いよね。だけど、監督が歩み寄って、コミュニケーションとるようになったじゃん。ちょっとした一言で心酔させるんだよね、監督って。

 嶋

 最初はただ怒られるばかりだったけど、先を見据えてわざと怒ったとか、そういうのが3年かけて分かるようになった。怒鳴られても、見返してやろうって選手が思い始めました。

 小

 嶋によく言うのは、チームの核だと思ってるから。交流戦の時、オレは監督室に呼ばれて「投手陣を頼む。引き締めてくれ」って言われたよ。抑えだった青山が打たれてた時だったな。すごく信頼してくれてると感じるよね。だから、なんとか期待に応えたい。

 嶋

 そういえば、監督の采配にA・J(ジョーンズ)が助言してますよ。

 小

 あそこの盗塁はダメとかね。でも監督、血が上るときもあるから、A・Jが言ったら監督冷静になるよ。

 嶋

 マギーが怒って、監督が慰めたこともありましたね。銀次のエラーを叱るコーチに「あんなに打ってるじゃないか」って、かなり興奮してましたね。

 小

 嶋だって号泣したよな。8月に5連敗したときね。責任を感じて混乱したんだね。嶋って年に1回、号泣するよな。

 嶋

 ロッカー室で恥ずかしい話、号泣して、もう明日球場に来ません!

 って。

 小

 その後、トレーニング担当の秋田コーチとファミレス行って、かき氷食ったなぁ。

 嶋

 次の日から、3連勝、1敗して、3連勝。5連敗がチャラになって、チームも立ち直りましたから。

 小

 それにしても、メジャー帰りの人って余裕あるよね。薮さんもそうだったけど、(斎藤)隆さんと稼頭央さんって、ギスギスしてない。話もおもしろいし、日本の野球に対してイライラしない。

 嶋

 隆さん、人の成功を心の底から喜びますよね。

 小

 オレが5回、6回とかに投げて、若い投手が8回、9回に投げていたら、心のどこかで「なにくそ」っていうのがあるけど、隆さんはないんだよ。

 嶋

 悔しさを抑えて喜んでるように見えない。

 小

 やった~!

 ってね。そういうの見ると、あーすげぇなって。メジャー行ってそうなったんじゃないかなって。オレもギスギスしたらダメだなって。

 嶋

 抑えた時も、隆さんは毎試合ハグする。熱い。

 小

 タイミングもあるけどね。オレ、将大にしようとしたら拒否られたから。「いいですよ~」って。将大と言えば、シーズン前に冗談で25勝して、100勝の節目でアメリカ行けばいいじゃんって言ってた。

 嶋

 そう言う小山さんも、アメリカ行きたいんでしょ?

 契約更改の会見でも言ってましたよね。

 小

 でいくそ!

 オレ個人のことはいいんだよ。大事なのはチーム。ここがゴールじゃない。クライマックス、日本シリーズもこのまま行くぜ!!※1

 小山伸は9月10日のロッテ戦(QVCマリン)で根元に満塁弾を浴びるなど5失点すると、翌日に自らバリカンで丸刈りにした。※2

 星野監督の出身地、岡山・倉敷中央図書館によると「でいくそ、という言葉は聞いたことがありませんが、岡山の一部では『でい』を感嘆符、感動詞として使うこともあります」。また、同県では「すごい」の意味で「でぇれぇ」という言葉もある。いずれにせよ悔しさの「クソ」が強調され「ものすごく悔しい」の意味と考えられる。