心の奥には、今も生きている。日本ハム斎藤佑樹投手(25)には、日本一を果たした楽天田中将大投手(25)への秘めた胸の内があった。06年夏の甲子園決勝で伝説的な投げ合いを演じ、斎藤が制した。それ以来、2人を語る上で互いに切っても切れない存在になった。今、プロ野球界、投手としてもNO・1に上り詰めた田中をどう見て、どう考えているのか。かつてのライバルの快挙から一夜明けた4日、赤裸々な思いを明かした。

 後世に語り継がれる力投を見届けた。斎藤は盟友の姿に心砕かれた。「佑ちゃん」と「マー君」。06年夏の甲子園決勝、早実対駒大苫小牧。日本一を争い、伝説となった死闘の投げ合いを演じた。延長再試合の末に投げ勝った相手の田中が、プロ野球の頂点に上り詰めた。斎藤は沖縄・国頭で秋季キャンプ中。テレビで目に焼き付け、偽らざる本音を吐露した。「良かったです。感動しました」。

 7年前の夏に交わってから、野球人生を伴走してきたような存在。お互いに必要以上に距離を縮めることなく、関係を保ってきた。「一緒のチームにいるわけではないので」と理由を説明したが、しっかり心の中に生きている。

 斎藤

 (公式戦)24勝なんて…。負けずにやってやる、と思っても絶対にできないですから。本当に言いますけれど、甲子園が終わってからも、僕の方が上だと思ったことは1度もない。(田中は)プロに行って活躍して。僕はいろいろなところが足りないから大学へ行った。同世代の人が見て感じている「タナカマサヒロ像」と一緒。プロの1人の投手として見ている。

 高校卒業後は大学、プロと進む道は分かれた。10年ドラフト1位で日本ハム入り。同じ世界に身を投じた。かつて最高の舞台でマウンドを分け合った者だけが知る感覚がある。斎藤は田中のすごみを明かし、説得力ある分析をした。

 斎藤

 高校の時も、そう感じていたけれど「1番を走ったらとてつもなく強いな」と。甲子園では勝ちましたけれど、投げ合っていても、ずっと感じていました。一昨年とかかな。ダル(ダルビッシュ)さんとかが(日本球界に)いたので、もしかしたら力を発揮できなかった部分もあるかもしれない、とは思う。

 高校時代の残像から、世の中は今も2人を注視する。現在、プロで対照的な立場。好奇の目も、声も耳にする。プロでは11年9月を皮切りに3度、投げ合いが実現した。そして、3度敗れた。残酷にも見える現実とも、向き合うことができている。

 斎藤

 比較してくれるなら、比較してくれて構わない。それはマー君だろうが、誰だろうが関係ない。大学を選んで、プロへ行って。周りが騒げば騒ぐほど「別に」という感じはあります。ただ(投げ合いで)どれだけ差があるのか感じてみたかった。

 来季は右肩関節唇損傷からの復活を懸ける1年。田中は、メジャー挑戦の可能性がある。この3年間は交錯したが、高校卒業時と同じく来季、2人はまた別世界にいるかもしれない。

 斎藤

 心のどこかでは、負けたくないというのはある。(プロの)スタートも違うし、進むべき方向も違う。でも僕もいつか野球で「ガツン」という思いは、強く持っている。

 田中への親愛なる真っすぐな思いがある。斎藤は胸に秘め、抱きながら必死に生きている。【高山通史】