阪神が、来季から新加入する呉昇桓(オ・スンファン)投手(31=韓国サムスン)に「予習DVD」を既に手渡していたことが29日、分かった。セ・リーグ5球団の主力打者の打撃映像をまとめたもので、11月下旬に中村GMらが渡韓した際、持参した。冷静に、着実に仕事をこなすスナイパーが、新たな標的攻略のイメージを膨らませている。

 異国で挑戦する韓国球史最強クローザーへの最高の「お・も・て・な・し」だろう。高級マンションでも3つ星の和食でもない。阪神は、いち早く呉昇桓をフォローしていた。11月22日に韓国・大邱のサムスン球団事務所で契約合意。ともに焼き肉を食べて会食した中村GMらが手渡していたのはマル秘DVD集だった。

 呉昇桓にとって何より心強いアイテムだろう。液晶テレビに流れるのは阪神が編集したセ・リーグ5球団の主力打者が打つ映像だ。今季、60本塁打のヤクルト・バレンティンはもちろん、打点王のDeNAブランコ、宿敵巨人からは阿部、村田、坂本、長野らがズラリ…。いずれも、来季から呉昇桓が真剣勝負を繰り広げる猛者たちだ。しかも、豪快アーチや好打だけでなく、凡打や三振する姿も収めてあるという。

 球団関係者は「参考になればいい。実際に対戦して感じることが一番だけど、早めに知っておくに越したことはないから」と説明する。最速157キロを誇り、韓国球界最多の277セーブをマークした。呉昇桓自身は輝かしい実績に甘んじるつもりはなく、12月中旬以降は日本での入団会見後、グアムに飛んで自主トレを開始。1月には沖縄での合同自主トレに参加する予定だ。体を鍛えるだけではない。打者をいかに抑えるか。ヒットコースなどの長所、苦手なゾーンを把握できるなど、利点は多く、DVD集は格好の教材だ。

 狙った獲物に狙いを定めて、百発百中で仕留める。中村GMは第一印象を「人をあまり寄せつけない雰囲気があるな。勝ち気、強気、芯の強さというか風格、オーラを感じる」と評していた。まるで人気漫画「ゴルゴ13」の主人公デューク東郷、ことゴルゴ13をほうふつさせる人柄。いまは気配を消す。韓国の自宅リビングでDVDを見ては静かに策を練っているだろう。

 相手に解剖される前にライバルを知り尽くす。韓国代表でWBCに3大会連続で出場しており、日本の打者と対戦経験もある。敵に悟られることなく撃ち貫くのがスナイパーの極意。予備知識を入念にインプットし、ミッションを確実にこなすだけだ。

 ◆呉昇桓(オ・スンファン)1982年7月15日、韓国生まれ。04年ドラフトでサムスンに入団。05年に新人王。5度のセーブ王を獲得。通算444試合で28勝13敗、防御率1.69、同国最多の277セーブ。WBCは3大会連続で韓国代表に選ばれた。178センチ、92キロ。右投げ右打ち。