<オープン戦:阪神4-6広島>◇12日◇甲子園

 ノリノリの甲子園最終リハーサルだ。阪神の新守護神呉昇桓投手(31=韓国・サムスン)が完璧な投球で1回を3者凡退に抑えた。開幕前、最後となる本拠地のマウンドにリリーフカーで上がり、1回をわずか9球、3人で料理。キレを増した「石直球」は最速151キロを計測し、制球も抜群だった。

 打者はピクリとも動けなかった。9回2死、広島小窪を追い込んでからの5球目だ。呉昇桓の地をはうような「石直球」が外角いっぱいに決まった。「ストライク、スリー!」。球審のコールを待つまでもなく、守護神はマウンドを降り始めていた。

 「徐々によくなっていかないといけない。シーズンに入ったら、最後に投げたようなボールをたくさん投げられないとね」

 右翼ポール奥から走って登場した前回(8日・日本ハム戦)とは違い、リリーフカーに乗ってさっそうとマウンドへ向かった。オープン戦3試合目の登板は明らかにギアが上がっていた。高速スライダーで先頭の安部を一ゴロに打ち取ると、続く岩本は伸びのある直球で三塁へのファウルフライ。最後は、打者の手も足も出ないところに決めた。来日後初の1回3人斬り。わずか9球、たった5分でスコアボードに「0」を刻んだ。こんなシーンが何度も見たい-。敗色濃厚の展開にもかかわらず、スタンドから拍手が送られた。

 「最初から初めて立つマウンドじゃないという感覚。投げやすかった」

 これで甲子園でのオープン戦は終了した。次、マウンドに上がる時はシーズン本番となる。完璧な投球で甲子園リハーサルを終えた右腕は、仕事場となる本拠地のマウンドへラブコール。セーブを積み重ねる舞台は整った。

 勝敗を背負う重圧は、甲子園独特の大歓声でさらに増幅される。加えて、雨にも風にもさらされる。その過酷さはマウンドに立った者にしかわからないだろう。ただ、呉昇桓なら耐えられるはず。そんな頼れるイメージも定着してきた。

 沖縄・宜野座キャンプでは早朝から宿舎ホテルの風呂に入る呉昇桓が目撃されていた。しかも、キンキンに冷えた水風呂に入って、笑っていたというのだ。また、実戦登板前に筋力トレーニングをガンガンやっていたとも…。投手陣の間では早くも“石仏伝説”がささやかれている。強く、速く、たくましい。甲子園の最終回はこんな男にしか任せられない。【鈴木忠平】