<日本ハム4-1西武>◇29日◇札幌ドーム

 やっぱり佑ちゃんは持っていた!

 日本ハム斎藤佑樹投手(26)が、2年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出に導いた。5回を2安打1失点に抑え、本拠札幌ドームでは12年6月6日広島戦以来845日ぶりの白星となる今季2勝目を挙げた。当初は今日30日に登板予定だったが、大谷の体調不良で大一番のマウンドを託され、結果を残した。チームは3位が確定し、下克上での日本シリーズ進出を目指す。

 感傷的になった。斎藤が重荷を解いた。澄んだ声だった。「この光景を、また見ることができてすごく幸せです」。2年以上も前、845日ぶりにお立ち台から本拠地を見渡した。今季2勝目がCSも決めるチームのメモリアルな1日と重なった。大谷が風邪で登板回避。予定外のマウンドに、1日前倒しで立った。天運に導かれるように巡り、巡ってきたビッグゲームで使命を遂げた。

 覚悟が1球に見えた。1回2死。浅村に140キロを中堅左へ特大ソロを浴びた。直後だった。続く大砲メヒアへの初球。捕手大野と、同じ直球系を迷わず選んだ。懐をえぐるような141キロ。ボール球で巨体を起こした。先手を打ち、空振り三振に切った。「打者から逃げなかった」。栗山監督がシンプルに挙げた勝因を象徴した。迫力あふれる軌道に、心意気がにじんだ。斎藤は言った。「この場所(登板)ができたことがうれしい。監督が起用してくれたことがうれしい」。栗山監督は託した。監督と選手の関係を超越した「個人的な」思いがあった。技術、体力でもなく、数値で表れないパワーにかけ、選んだ。「違う何かの力を持っている選手がいる」。

 終盤戦に差し掛かり、チームを率いるトップとして腹を決めた。最高責任者で決定権は自分にある-。「ある人がオレに似ているって言ってさ」と指摘された。かつて興味があり、文献を読み直した歴史上の人物に傾倒した。太平洋戦争で、日本帝国海軍を率いた山本五十六連合艦隊司令長官。投影させた、先人のリーダーが残した1つの金言がある。

 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず

 この日の斎藤の投入も含め、貫く信念を固める礎になった。2軍調整中の実戦でも、他の先発候補を圧倒するような好成績を残していなかった。コーチ陣ら周囲の一部から反対意見はあったというが、栗山監督は押し通し、振り切った。「(戦時中は)死にに行けっていうんだからね」。よどんでいた斎藤に、起用法だけで無言のメッセージを送った。わずか5回82球だったが、輝いた。

 結ばれていた2人の絆で、大一番に勝った。栗山監督は「いいんだ、これで。きっとね」と詳細を胸にしまい、浸った。斎藤はヒーローインタビューでも、打ち明けた。「こういう場所をくださった監督に、6回以降を投げてくれた中継ぎの方々に感謝したい」。下克上を狙う起点となった日に、特別な1勝が生まれた。【高山通史】<斎藤佑樹の紆余曲折>

 ◆右肩負傷

 12年11月1日の日本シリーズ第5戦で登板。2回4安打2失点も右肩関節唇損傷を発症した。その影響で翌13年のキャンプは2軍スタートを余儀なくされた。

 ◆リハビリ

 13年は開幕から2軍で地道なリハビリ。6月22日のフューチャーズ戦(鎌ケ谷)で実戦復帰の先発登板で2回1安打無失点に抑えた。右肩の負傷は再発せず、順調に登板を重ね、10月2日のオリックス戦で約1年ぶりに1軍先発も、5回途中5安打6失点で負け投手。

 ◆2軍降格

 14年は2年ぶりにキャンプ1軍スタート。3月29日、開幕2試合目のオリックス戦で先発も6回9安打4失点で黒星。4月10日の楽天戦も先発し2回途中2安打4四球で降板し、2軍に降格した。

 ◆2年ぶり白星

 2軍戦の登板を経て7月12日のソフトバンク戦で約3カ月ぶりに1軍登板。5回4安打1失点で勝利は逃すも好投した。同31日ロッテ戦で今季4度目の登板。6回6安打1失点で785日ぶりの勝利を挙げた。8月14日のロッテ戦で登板し2回2/35失点KOで再び2軍に降格した。