<パCSファイナルステージ:ソフトバンク4-1日本ハム>◇第6戦◇20日◇ヤフオクドーム

 日本ハムの14年シーズンが終わった。3位からの下克上を狙ったが敗れ、相手アドバンテージを含め3勝4敗で日本シリーズ進出を逃した。ファーストステージから続けてきた快進撃も最終第6戦に力尽きたが、栗山英樹監督(53)はシーズンを通じて手腕を発揮。「二刀流」大谷を覚醒させ、若手への世代交代にも成功。来季こそ日本一を奪還する。

 両目が潤んだ。栗山監督が上を向き、こぼれおちそうな、しずくを必死に防いだ。公式戦144試合、CS計9試合。1勝、足りなかった。「勝っていれば、もっと(選手らを)喜ばせてあげられた。歴史は勝者にしか作れない」。最終9回に1点を返すのが、精いっぱい。大どんでん返しを狙い、王者ソフトバンクに食い下がった。あと1歩で力尽きた。「本当にいいCSだった、と言いたかった」。来季への確かな手応えと、未練も残った。

 終わりは告げたが、壮大で価値ある進撃だった。昨季、北海道へ本拠地を移転して10年目の節目。初の最下位に沈んだ。今季開幕前の下馬評も低評価。目立った補強は、外国人選手程度だった。「チームが生まれ変わる時期にきていた」。世代交代を図る転機と、栗山監督とフロント陣は自覚をともにして臨んだ。1、2番に定着した西川と中島が育った。この日先発の上沢、伸び悩んでいた中村ら投手陣も台頭した。CSでも躍動した。期待の層が主力への階段を上りだした。

 一貫したスタンスで、球界の至宝も覚醒させた。二刀流2年目に挑んだ大谷。投手で11勝、野手で10本塁打。球界の有識者から反対を唱える雑音はいまだ消えない。今季も貫いたが確信はなく、祈りに似た思いも心の奥底にはあった。9月6日、敵地でのオリックス戦。宿舎から大阪城まで散歩。同姓の戦国武将・大谷吉継の携帯ストラップを購入した。「ホームラン打たないかな」。その翌日に10号をマークした。「10勝&10本塁打以上」でベーブ・ルースに並んだ。間違っていなかったと、野球の神様も教えてくれた。

 今CSも、願をかけた。ファーストステージは、同じ大阪でのオリックスと対戦。「日本一になれるように」。天下を取った豊臣秀吉モデルをプラスして計2本のストラップを携えての短期決戦。あと1歩で挑戦権を逃したが、伸ばした才能とともに1年間を駆け抜けた。毎年元日に1年間の誓いを10項目、立てる。今季、その1番目に「人に嫌われる」と、したためたという。愛情いっぱいの時に厳しく、激しいタクトで奮い立たせて個々を育てた。下克上寸前まで肉薄した集団を、まとめあげた。

 この日で稲葉、金子誠が去った。明るい新時代の予感が漂う軌跡を描いた。栗山監督は、物思いにふけった。「(来季も監督を)オレ、やるんだよね。(来季は)勝たなければいけない年。意識してやっていく」。3年ぶりのペナント奪取へ。再び常勝チームを築く、再生の胎動は響かせた。【高山通史】