これが「強い」人間なのかと感じた。WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者内山高志(36)が、6年3カ月守った王座から陥落した。2回に3度のダウンを奪われる、まさかの敗戦。会場にいたファン、関係者、報道陣の動揺が消えぬ中、試合終了から約10分後、控室に戻った内山の会見はすぐに行われた。

 “本拠地”とも言える東京・大田区総合体育館。いつもの場所に、いつものベルトはない。だが、いすに座ると、勝利した時と変わらず、しっかりとした言葉で取材に応じた。

 「調子は良かった。調整はうまくいった。完全なKO負けです」。一切の言い訳はなかった。対戦相手が二転三転したことの影響を問われても「ありません。この試合に向けて、しっかりと練習を積んできました」。11度防衛した名王者。会見をキャンセルしても誰も文句は言えない。時間を置き、落ち着いてから対応することも出来た。だが、そうはしなかった。

 翌日も、同じような場面があった。防衛に成功したジムの後輩・河野、田口の一夜明け会見。冒頭でテレビ局関係者を通じ、コメントを出した。「今日のところは勘弁してください。今後のことはきちんと決めて、あらためてお話しします。一夜明けて悔しさがこみ上げています」。

 報道陣の興味が自身の進退に注がれることは分かっていた。ある関係者は「河野と田口が目立つようにという配慮。ただ、コメントがないとマスコミが困るのも分かっていたのではないか」と言った。

 現時点で去就に関して明確な意思表示はしていない。「続けた方が良い」「辞めた方が良い」-。取材をしていても、意外にもどちらの声もあまり耳にしない。ただ、内山の決定を静かに待っているような雰囲気を感じる。希代のボクサーはどんな道を選ぶのだろうか。【奥山将志】