RIZINのリングに上がりあいさつするマニー・パッキャオ(2019年4月21日撮影)
RIZINのリングに上がりあいさつするマニー・パッキャオ(2019年4月21日撮影)

横浜アリーナに、WOWOWのボクシング中継「エキサイトマッチ」のテーマ曲のファイティング・ブラッド(つのだひろ作曲)が流れていた。21日に開催された格闘技興行RIZIN15大会のセミファイナル前。花道に登場したのはスーツ姿のボクシング5階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)だった。自分がボクシング担当だからなのだろう。何かを「持っていかれた」という感覚があった。

格闘技興行の観戦は初めて、というパッキャオはRIZINとの交渉を経て推薦したというフリッツ・ビアグタン(フィリピン)とキックボクシング界の「神童」那須川天心(20)のキックボクシングルールを視察。3回KOで下した那須川を「強い」と感想を述べた。試合後の会見で報道陣から那須川に質問が飛んだ。「将来的にパッキャオとの対戦は?」。那須川は「そこはノーコメントで」。競技は違うのに、この質疑応答が成立してしまう。それは昨年の大みそかのRIZIN14大会のメインイベント、ボクシング5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米国)とのエキシビション戦があったからだろう。

国内でのボクシング公式戦は、日本ボクシングコミッションが管轄している。パッキャオやメイウェザーがRIZINのリングでボクシング公式戦はできない。昨年大みそかも、打撃はパンチのみという限りなくボクシングルールに近いエキシビション戦だった。キックボクシング、総合格闘技、ボクシングは異なるジャンルにもかかわらず、ボクシング界のスーパースター登場がRIZINで話題になり、来場だけで演出の1つになった。RIZINのプロモーション能力の高さだろう。

エキサイトマッチのテーマ曲が会場に流れた時の、胸騒ぎのような「持っていかれた」感は何だろうと考えた。先日来日したメイウェザーの関係者が前WBA世界ミドル級王者村田諒太(帝拳)との対戦プランを明かした。階級も近い両者の対戦は「ドリームマッチ」として想像できた。ワクワクした。いつかボクシング界で組まれるかもしれない夢カードの妄想は胸をかき立てる楽しみだ。

もしかしたら対戦するかもしれないという期待感-。実現するか否かは別にしても、ボクシング界で考えられるべき、メイウェザーやパッキャオの夢カードを想像する楽しみを、RIZINに「持っていかれた」のかもしれない。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

那須川天心戦で笑顔を見せるフロイド・メイウェザー(2018年12月31日撮影)
那須川天心戦で笑顔を見せるフロイド・メイウェザー(2018年12月31日撮影)