夏巡業も残すところ、東京駅近くの商業施設「KITTE」の1日のみ。21日間で計16都市をめぐった地方開催分が終了し、力士は名古屋場所前から2カ月も続いた“出張”から、ようやく帰宅した。

 今回の夏巡業でもっとも感じた特色。それはSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)だった。現地でファンと触れ合うのはもちろんだが、来られないファンにも、ブログやツイッター、インスタグラムといったSNSを使って「シリーズ化」させた内容で楽しませる力士が目立った。

 嘉風(33=尾車)は「後ろ姿は誰でしょう」と銘打って、あらゆる力士を登場させた。大関稀勢の里(29=田子ノ浦)らを引っ張りだして、最後は横綱白鵬(30=宮城野)で締めた。豊ノ島(32=時津風)も「このパンツは誰でしょう」と、普段はまわし姿しか見慣れない力士のパンツルックを引き合いに、クイズ形式で興味を誘った。

 極めつきは安美錦(36=伊勢ケ浜)。自身のブログに「通りがかりの」里山(34=尾上)をたびたび登場させた。最初は里山から「登場させて」とのお願いだったが、次第に安美錦もおもしろがり、その日の脚本を練りに練った。その愉快さは各方面に広がっていった。巡業では、里山が声を掛けられる数は日に日に増していった。「人のふんどしで相撲を取っちゃいました」と笑った里山は今回の巡業で、もっとも「得」をした力士かもしれない。

 大砂嵐(23=大嶽)が、千代丸(24=九重)とのじゃれ合いや寝顔を投稿したことで千代丸人気が急騰したように、力士はどこから人気に火が付くか、分からなくなった。そんなSNSを活用する力士は、もはや多い。それは年齢にかかわらない。今回紹介した3人は、いずれも30代のベテランと呼ばれる関取たち。いや、ベテランだからこそ1人よがりになりすぎず、ファンに興味を持たせる活用の仕方をしているのかもしれない。

 もちろん、力士の本分は土俵の上にある。以前、稀勢の里が「ファンが増えるのはいいこと」と認めた上で、あえて「自分はやらないです。お客さんは、人間離れしたぶつかり合いなど、神秘的な世界がどういうものかを見に来ていると思うんです。だから、あえてさらけ出す必要はないかなと。『あいつ、何やっているんだろう』というぐらいの方がいいと思って」と言っていたように、自らはSNSに手を付けず、硬派な勝負師を演じる力士がいていい。それと同じように、楽しませる力士がいてもいい。硬軟織り交ぜながら、その両輪で、相撲人気は回っている。【今村健人】