新たな番付が発表されると、新入幕や新十両、自己最高位を更新した力士の稽古熱は自然と高まってくるが、それ以上に新たな場所へ闘志を燃やしているのは「陥落」を味わった力士かもしれない。

 豊響(30=境川)は、東前頭14枚目で迎えた名古屋場所で4年ぶりの初日から4連勝と好発進しながら、5日目からまさかの8連敗。結局5勝10敗に終わり、10年九州場所以来28場所ぶりに十両へ陥落した。秋場所は、東十両3枚目から捲土重来(けんどちょうらい)を期す。

 185センチ、188キロの迫力ある体での押し相撲で「猛牛」と呼ばれた。12年夏場所では、白鵬を破ったこともある。大きな体だけに、良く食べる。2年前の名古屋では、焼き肉店で肉が在庫切れになると、みそかつ店へ移動し、さらにコメダ珈琲店でサンドイッチを平らげたこともあったという。関取でも上位の大食漢だが、最近、暴飲暴食をやめた。青汁やサプリメントで栄養を補給し「夜9時以降は食べないようにしている」。昨年11月に30歳になり体調を考慮。14万円の電気治療器を購入し、悩まされていた両肩痛と、慢性的な右膝痛は良化気配だ。ただ、先場所は結果に結びつかなかった。

 迷い、悩みも多かったことだろう。だが、名古屋場所千秋楽翌日、新大阪駅でバッタリ会った豊響は、既に気持ちが切り替わっていたように、表情には笑みがこぼれていた。それもそのはず、その傍らには、4年半の交際を経てプロポーズをした婚約者の姿があった。「これから、一緒に(地元の)山口まで行くんです」。こわもての豊響だが、フィアンセの平井里由貴さんには、お互い好きな犬の話などでいやされてきたという。婚約会見では「身の引き締まる思い。これからも頑張らなければいけないという覚悟です」と決意表明した。三役昇進という悲願もある。このまま十両でうろうろするわけにはいかない。

 同じ山口・下関市出身の元小結豊真将が初場所で引退した。「山口の関取は、自分1人になったんで」と豊響。故郷の期待を背負う責任感もある。秋場所が終われば、山口の隣県福岡で行われる九州場所が待つ。勝負の9月、破壊力抜群の押し相撲で「猛牛復活」を果たし、晴れてご当地に戻ってほしい。【木村有三】