白鵬の大記録に沸いた今場所結びの一番。その白鵬と対戦した日馬富士は、勝っても負けても“貴超え”の記録がかかっていた。勝てば、並んでいた元横綱貴乃花を抜き単独7位となる幕内702勝。負ければ、やはり貴乃花が99敗でギリギリとどまった横綱100敗目。マークしたのは後者の方だった。

 番付降下がなく、負けが込めば引退しか道が残されない横綱の地位。その中での100敗は意味ある数字ともいえる。勝利も伴わなければ退くしかない。細身の日馬富士だけに、なおさらのことだ。勝率から1場所平均11勝はしている。敗戦という負の積み重ねの数字を突きつけられても日馬富士は「これからも自分のやるべきことに集中して、あとは神様に祈るだけ。見ている人に感動と喜びを与えたい」と正面を見た。

 場所前、宇良との対戦を「あの足腰はすごい。楽しみだ」と話す一方、顔を曇らせて言った。「でも宇良の相撲を見るのは怖い。怖くて見てられないんだ。小さいからつぶされる」。力士生命を断たれかねないケガと闘ってきた自分と宇良が重なった。その宇良に横綱99敗目を喫したのは皮肉な巡り合わせだが、これからも「全身全霊」を傾ける姿勢に揺るぎはない。【渡辺佳彦】