雪辱を期した前スーパー王者内山高志(37=ワタナベ)が2試合連続の黒星を喫した。4月に12度目の防衛を阻まれた王者ジェスレル・コラレス(25=パナマ)と対戦。戦術を守備重視に変えて、日本人最年長での王座奪還を狙ったが、1-2の判定で敗れた。進退については言及を避けたが、引退の可能性はある。内山の戦績は24勝(20KO)2敗1分けとなった。

 全ての力を出し尽くせなかった。その悔恨が内山の心を占めた。「そんなにダメージは受けなかった。余力残してしまったのがつらい…」。終盤、スピードが緩んだ相手に勝負をかける機会を逸した。「相手のペースが落ちなくてずるずるいってしまった」。口調は滑らかに丁寧に。ただ、悔しさは深くにじんだ。

 「やりづらかったですね」。頻繁にスイッチを繰り返し、「透明人間」の愛称を持つコラレスのフットワークにてこずった。ガードを固め、前に出る。重圧をかけてロープ際に追い込んでも、するりと逃げられた。これまでの後ろ足から、前足に重心を移し、背中を丸め、ブロックしてから打ち返す作戦。5回にはダウンを奪い、10回にはボディーを集めたが、致命傷には至らない。「最後はうまく逃げられた。僕の方が実力がない。採点は妥当」と判定を聞いてうつむいた。

 ただコラレスに勝つために、守備重視に変えた。11度防衛を重ねた攻撃性を捨てた。それだけかけていた。打たれる覚悟も固めた。合わせて、肉体改造も敢行。打ち終わりの被弾を警戒し下半身の安定を求めた。パンチで腕を伸ばした後、体がぐらつかずに防御姿勢に戻るには足腰が鍵。土居トレーナーと足場が不安定なバランスディスクを踏んでの上下運動などを繰り返した。

 「30センチのカーテン」も作戦に合っていた。通常は肘から手首までは、足の大きさと同じという説がある。だが、内山のそれはシューズが26・5センチに対し、30センチもある。天賦の才はその肘先に。この日も決定的な有効打は防いだが、仕留める攻撃面を欠いた。

 4月27日の敗戦から3日後。進退を巡る報道で、心配するコメントをした拓大の後輩、IBF世界ライトフライ級王者八重樫に「心配するな。もう走っている」と連絡した。後輩思い、他人思い、ジムの垣根を越えて助言もいとわない人格者は、敗戦後も行動は変わらない。シャワーを浴びる前に向かったのはファンの元。サイン、写真に応じた。

 進退は「いまはゆっくり休みます」と話すにとどめたが、2連敗の現実は厳しい。引退の可能性は十分にある。シャワー室に消える背中には、「待ってます!」「内山、サイコー」の声が響いていた。【阿部健吾】

 ◆井上尚弥のコメント WBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥 難しいラウンドが多かった。手数は相手が上回っていましたけど。悔しいですね。(内山は)慎重に警戒しながら対策を練って戦っていた。体のキレもスタミナもチャンピオンのままだった。自分も勇気をもらいました。あの年齢までやれるという自信になりました。現役を続けてほしいかどうかは、自分は何とも言えないです。

 ◆山中慎介のコメント WBC世界バンタム級王者山中慎介 本当にあと1歩のところだった。ダウン以後、自分の中では(内山が得点を)取っていたので、ジャッジとは違う。ただ、コラレスのうまさといえばうまさ。内山さんのこの試合に懸ける思いが見えた。いい刺激をもらった。