前WBO世界ミニマム級王者田中恒成(21=畑中)が完勝で2階級制覇した。同ライトフライ級1位モイセス・フエンテス(メキシコ)と王座決定戦で対戦。5回に右ストレートを起点に連打を繰り出し、5回1分52秒TKO勝利。井上尚弥と並び日本人最速となる8戦目、さらに井上の21歳8カ月を抜き21歳6カ月の国内最年少で2階級制覇を達成した。17年は同じ階級のIBF王者八重樫東、WBA王者田口良一との夢の統一戦実現を目指す。

 誰が見ても力の差は歴然だった。田中が5回に右ストレートでロープまで詰め寄ると、一気に連打。フットワーク、スピード、パワーの全てで圧倒。「(相手の)心を折ろうかなと思った。自分の意思で倒れるようにした」とフエンテスをリングに沈めた。国内最速、最年少の2階級制覇をつかんだ。

 序盤から田中のスピードにフエンテスがついてこられなかった。パンチは確実に顔に当たった。しかし、なかなか倒れない。4回終了時に「顔をどんだけ打っても倒れんです」と口にした。畑中会長は「サイドに回って腹を打て」とアドバイス。足を使い、回り込んで攻撃を繰り出し、5回のTKO劇につなげた。

 1年で培った自信が爆発した。階級を1つ上げた昨年5月の試合で右拳を痛めた。約4カ月間、練習を控えるしかなかった。しかし、ケガは決してムダではなかった。「病院の先生に教わることも多かった。例えば拳のケア。一番打撲とかが多い箇所なのに、今までケアはあんまりしていなかった」。完治後は東京、大阪に武者修行に出た。

 日本ランカーとのスパーリングは2カ月間で100回を数えた。大阪には後輩の運転で片道約2時間半の日帰り遠征。名古屋に戻ったのは日付が変わるころだった。最大の敵だった減量も初防衛戦の反省を生かした。カロリー計算し、体脂肪率を極限まで落とした。昨年3月末から1人暮らしを開始。減量食の差し入れなど周囲のサポートで過去最高の仕上がりだった。

 畑中会長は「まずはWBOの防衛。近い将来にビッグマッチを狙っています。挑みます」と、次戦は早ければ4月に防衛戦を行う予定。

 さらには日本人王者の八重樫らとの夢の統一戦を描いている。田中は「2017年に実現しなかったとしてもチャレンジすることはしたい。楽しみにしておいてほしい」と宣言。日本人初の5階級制覇を掲げる「中京の怪物」の快進撃は、まだ止まらない。【宮崎えり子】

 田中の父でトレーナーの斉さんのコメント 1回の入り方に注目したが、硬かった。技術的には40点だが、自分が有利と分かったときの攻めは80点ぐらいだ。

 飯田覚士氏(元WBA世界スーパーフライ級王者)のコメント 圧倒的なうまさと強さを見せての勝ち方だった。パワーが予想以上だった。3階級制覇、さらに上の可能性を感じさせた。

 星野敬太郎氏(元WBA世界ミニマム級王者)のコメント 田中はスピードがあった。右ストレートや右フックを警戒できており、対策が練られていた。この強さなら5階級制覇も夢ではない。

 ◆田中恒成(たなか・こうせい)1995年(平7)6月15日、岐阜・多治見市生まれ。中京高(岐阜)では国体2連覇など4冠。13年プロデビュー。15年5月に5戦目でWBO世界ミニマム級王座獲得、日本人最速で世界王者に。中京大経済学部在学中。164センチの右ボクサーファイター。