<全日本:東京大会>◇10日◇後楽園ホール◇1900人

 全日本の社長でエースの武藤敬司(47)が、右ひざ手術から約半年ぶりに復帰した。船木誠勝(41)と新日本時代以来約25年ぶりにシングルで対戦。強烈なキックの連打に苦しい表情を浮かべながら、30分時間切れ引き分けの激闘を演じた。終盤には得意の月面水爆も披露。武藤健在をアピールした。

 最後はひざが立たなかった。それでも武藤は立ち上がった。ひざを震わせながら「プロレスLOVE」のポーズを取ると、会場は大歓声に包まれた。「毛穴という毛穴が全部開いてるよ。ハア、ハア」。3月8日の千葉大会以来、186日ぶりのリング。心地よい疲れと興奮が、体を包んだ。

 船木のミドルキックに何度も体をよじった。アキレスけん固めを決められると、苦し紛れにレフェリーのシャツをつかんだ。25分すぎ、得意の月面水爆を放った。全盛期の高さはない。もろに両ひざから落ちた。地獄を見てきた男の生きざまを投影するような、泥くさい戦いだった。

 4月に「変形性ひざ関節症」の手術を受け、右ひざの骨塊を除去した。復帰を前に、1度も実戦練習を行わなかった。「怖かったし、できなかった。リングに上がるまで体を壊せないから」。諏訪魔の保持する3冠挑戦を表明した船木の壁になった。「簡単に負けたら、船木(の評価)も上がらないからな。勝てなかったけど、負けなかった。30分戦えたよ」。武藤の魂が、聖地のリングでよみがえった。【森本隆】