<UFC

 JAPAN>◇26日◇さいたまスーパーアリーナ◇フェザー級5分3回戦

 日本総合格闘技界の“切り札”日沖発(28=ALIVE)が、日本人初のUFC王座奪取へ前進した。プロ通算35勝を誇るバート・パラゼウスキー(28=ポーランド)と対戦し、打撃と寝技でともに圧倒。判定3-0で快勝した。世界最高峰の舞台で日本人選手が苦戦する中、UFCデビュー2連勝を飾り、タイトル戦線の上位に急浮上。約2万人の母国ファンに新エース誕生を印象づけるとともに、今後数試合を挟んで、早ければ年内にも王座に挑戦する可能性が出てきた。

 世界の頂点を狙う覚悟が、全身を突き動かした。日沖は試合開始早々の1回、いきなり左フックでダウンを奪取。乾いた音が会場中に響き渡る左ローキックを矢継ぎ早に蹴り込んだ。ひるんだ相手を金網際に追い込み、テークダウン。「落ち着いて戦えていた」と馬乗りになって両拳を振り下ろしながら、巧みに体を回転させて関節技へ。スタンド、グラウンドの攻防でいずれも圧倒した。

 中学時代に総合格闘技を始め、PRIDEやK-1といった当時全盛を誇った舞台に憧れた。時代とともに国内人気は低迷しても、世界への思いは揺るがなかった。昨年10月のUFCデビュー戦で僅差の判定勝ちを収め、オクタゴン上で「日本の総合格闘技は、死んでいない」と言い放った。震災からの復興へ立ち上がった、格闘技の祖国と言われる日本で実績を重ねたプライドがあった。

 「本当は、あんな勝ち方で言うべきではなかった」と悩み、「実力を証明したい」と胸に誓って臨んだ。秋山や山本、昨年ミドル級王座に挑んだ岡見や水垣も敗れた今大会で、次代を担う2連勝。王座挑戦の有力候補となった。ただ、日沖が挑むフェザー級には総合14連勝中の王者ジョゼ・アルド(ブラジル)が君臨する。失敗が許されない舞台を知るからこそ「もう少し経験を積みたい」という。

 年内に想定される日沖の試合数はあと2試合ほど。12年ぶりの日本開催が約2万人を動員して盛況に終わり、UFCのデイナ・ホワイト社長(42)は「日本には世界的に有望な選手がいる。また来る」と再上陸を示唆しており、状況が整えば日本での王座挑戦も夢ではない。日本の新エースが、日本人がいまだ達成していない最高峰の頂点へ走りだした。【山下健二郎】

 ◆日沖発(ひおき・はつ)1983年(昭58)7月18日、名古屋市生まれ。中学時代からブラジリアン柔術を学び、02年10月に修斗でプロデビュー。06年5月にカナダの総合格闘技TKOの世界ライト級王座を、10年には修斗世界同級王座を獲得した。09年から戦極に参戦。10年12月にSRCフェザー級王座獲得。11年10月のUFC初戦でジョージ・ループに判定2-1勝利。総合通算26勝4敗2分け。181センチ、66キロ。

 ◆日本人のUFC王座挑戦

 過去に5度。00年12月UFC29で、近藤有己がライトヘビー級王者ティト・オーティス、山本健一がウエルター級王者パット・ミレティッチに挑んだが、ともに敗戦。02年3月のUFC36では桜井“マッハ”速人が、ウエルター級王者マット・ヒューズに敗北。世界的規模になった現体制では03年2月のUFC41でライト級王座決定戦に臨んだ宇野薫が、BJペンと引き分けた。昨年8月、岡見勇信がミドル級王者アンデウソン・シウバに敗れた。