<プロボクシング:日本ライトフライ級50キロ契約10回戦>◇16日◇東京・後楽園ホール

 怪物が日本タイトル挑戦に前進だ!

 高校生初のアマ7冠の日本ライトフライ級6位・井上尚弥(20=大橋)が、プロ3戦目をKOで飾った。同級1位の佐野友樹(31=松田)と対戦し、3回に右拳を負傷。左手一本での戦いを強いられたが、10回1分9秒、レフェリーストップよるTKO勝ちを収めた。次戦での日本タイトル挑戦が現実味を帯びてきた。

 最後までKOへの意欲は消えなかった。気合を入れ直して臨んだ最終10回、井上は連打で間合いを詰め、強烈な左フックをたたき込むと、佐野がよろめいた。たまらずレフェリーが試合を止めた。プロ初の日本人との試合を3戦連続でのKOで決めた。「勝ててほっとしている。さすがランク1位でタフだった」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 左手一本で攻め切った。初回、佐野が右目上から流血するほどの強烈な左アッパーをたたき込み、2回に最初のダウンを奪った。4回に2度目のダウンを奪取。大観衆のKOへの期待も最高潮に達した。しかし、3回途中、今年2月の練習中に負傷した右拳を痛めた。徐々に手数も減った。「打てる状態ではなかった」(井上)。コンビネーションが使えなくなり「左だけでコントロールすることを考えて逆に力んだ」と空振りも増えた。そんな逆境にも「どこかで仕留めないといけない」と最後までKO勝ちにこだわった。

 収穫もあった。過去2戦は4回以内の決着。スタミナ面の不安もあったが、過去最高の142回のスパーリングを消化したことで、初体験の10回の戦いにも動き続けることができた。大橋秀行会長(48)は「左手一本でもフットワークを使っていろいろ試せた。合格。長いラウンドを戦えて良かった」と強調した。

 井上はこの勝利で同級のランキング1位に浮上する可能性がある。次戦については「1位になれば田口さんとタイトル戦をやりたい」と同級王者・田口良一(26=ワタナベ)への挑戦に強い意欲を示した。大橋会長も「田口選手も望んでいるようなのでぜひやりたい」とサポートを確約。フジテレビで21年ぶりとなるゴールデン生中継、試合前に村田のプロテストが行われる「異例」ずくめのプロ3戦目を乗り越えた。右拳の回復次第だが、次戦は7月を予定。怪物がまた一歩成長した。【奥山将志】

 ◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾さんの影響で小学1年からボクシングを始める。相模原青陵高1年時でインターハイ、国体、全国選抜と3冠達成。3年時に国際大会プレジデント杯、全日本選手権を制覇するなどアマ7冠を達成。アマ通算75勝(48KO・RSC)6敗。昨年7月にプロ転向。163センチの右ボクサーファイター。家族は両親と姉、弟。