新関脇の照ノ富士(23=伊勢ケ浜)が大関琴奨菊(31)を押し出しで破り、1敗を守った。兄弟子の安美錦(36)が右膝を負傷して病院に運ばれるアクシデントに発奮し、全勝の横綱白鵬(30)を追いかける9勝目を挙げた。

 照ノ富士の顔に笑みはなかった。立ち合いで左を差し、琴奨菊のがぶり寄りを右足1本で残す。「最初はちょっときつかったかな。途中で大丈夫になった。左を差せたから、じっくり行こうと思った」。その後は動じず、相手の小手投げ気味のはたきに乗じて一気に押し出し。支度部屋に戻ると「膝、心配だな。大丈夫だといいな」。安美錦のことが心配だった。

 出番前の支度部屋のテレビで、安美錦が負傷する姿を目にした。8日目にはともに初黒星を喫し「安美関が負けたから俺も負けた」「まだ俺は超せないな」と冗談を言い合った。相撲が悪ければ叱られ、良ければ褒められた。「気合が入りました」。厳しくも優しい兄弟子の分も、負けられなかった。

 並外れた感覚がある。集中すると「目の前が真っ黒になる。目は開いてるけど、見えない。ちょっとずつ見えてくる」。伏せた2枚のカードのうち、数字の大小も「90%当たる。目をつぶって、どっちがデカイか見える」と豪語する。読みはさえ、立ち合いは「絶対、右を差されないように来る」と予想どおりの展開。「思い通りっす。考えた通りの相撲」とうなずいた。

 初場所の稀勢の里、昨年九州場所の逸ノ城。これまで、狙った獲物は必ず仕留めてきた。先月23日の番付発表では白鵬から唯一、「要注意人物」と名指しされた大器。11日目に予想された顔合わせは、審判部の配慮から12日目以降になった。「横綱だけは、勝ちたい。1回も勝ったことないから」。過去3戦3敗。照準は定まった。【桑原亮】